「ほらほら、いい加減にしなさいな。」

女土方は僕の頭をぽんと叩いてそう言った。僕が手を緩めるとクレヨンは僕の下から這い出して、


「この野蛮人、あんたもあの冷血女も一緒よ。二人でアダルトでも出ればいいわ。中年女の欲望のなれの果てとか言って、・・。」

と悪態をついた。

僕は逃げようとするクレヨンを後ろから羽交い締めにしてまたに手をまわして担ぎあげるとベッドの上に投げ落としてやった。そして素早く抑え込むと、「じゃあ、今からアダルトの練習をしよう」と言って胸を揉んでやった。クレヨンはわめきながら僕の腕をすり抜けると女土方のところへ逃げて行った。


女土方はそんな僕たちを笑いながら見ていて、「さあ、あんたたち、もういい加減にしなさいな」とだけ言った。



翌日職場に出たが、知的美人は特に変わったこともなく何時もの通り黙々と仕事をこなすと定時になればさっと帰って行った。真実を突き止めるなどと言ってもほとんどつけいる余地もなく日が過ぎて行った。


まさかこっちから一手お願いしますというわけにもいかず仕事以外にこれと言った話もして来なかったので声をかけるのもはばかられた。時々知的美人と廊下や洗面所で出会っても、あの時あんなことがあったとは思いもよらないように素気なかった。


僕は女土方に「何だか嫌われちゃったみたい。だめかもしれないわね」と任務達成は極めて困難であることを伝えておいた。女土方は何とも言いようのない笑みを浮かべただけで何も言わなかった。そうして一ケ月が過ぎ、二ヵ月が過ぎ、三か月が過ぎようとしていたが、知的美人の態度には何らの変化もなく任務達成はほとんど困難と思われた。


北の政所様からは、「どうなっているのか」と催促が来るようで、僕は、

「呼んで直接聞いてみれば」

と短気なことを言うしかなかった。ところが女土方は、

「あの人、時々あなたの方を見ているわ。下心のありそうな目つきで、・・。間違いなく機会を見ているのよ。一度あなたに突っぱねられたんでそうそう声をかけ辛いんでしょう。でもきっと声をかけて来るわ。間違いない。もう少し頑張って。何か誘い水でも向けてみたら、うーん、どうすればいいかなあ」

などと核心的なことを言う。

どうやって誘い水を向けるんだ。興味本位で軽く引き受けたが、これほど神経を使うことになるとは思わなかった。知的美人の顔を見ると何だか恨めしくなってきた。まあ、仕方がないので出来るだけ知的美人の目につくような動きを心がけることにした。


それでも知的美人は気が付いているのかいないのか全く反応がなかった。何だか男に戻って女の関心を惹こうとしているようだった。そんなこんなしても全く変化もなかったのでもういい加減に面倒になって直接問いただしてやろうかと思ったが、「もしも間違っていたら厄介なことになるから」と女土方に止められて仕方なく思い止まった。


どうして僕がこんな苦労をしなければいけないんだと思うと、何だかバカバカしくなってきてしばらくは知的美人もほったらかしてのんびり自分の生活を送ることにした。元の生活に戻ると今まで束縛されていたのが解けてさばさばした気持ちになってのびのびとふるまえるようになった。


まあ僕も男だから、おっと元は男だからと言うべきだろうか、知的美人に興味がないわけではないし、やろうと言うなら、「おう、望むところ」となるんだが、好奇心だけで感情があるわけではないので無責任かもしれないが、知的美人本人はどうでもよかった。


急に素気なくなった僕に気がついたのか知的美人の態度が変わった。素気ない金属のような態度はそのままだが、何かと僕の方を垣間見るようになった。



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