11機の各種航空機からなる中国空軍航空機編隊が、宮古島と沖縄島の間のいわゆる宮古水道上空を西太平洋に抜けて飛行した。編隊は再び東シナ海上空に戻り、一部の航空機は尖閣沖や奄美大島沖上空に接近してから中国に帰投した。

  
航空自衛隊は編隊に対して戦闘機を緊急発進させ警戒に当たったが、領空侵犯を企てるといった行為は発生しなかった。防衛省は、航空自衛隊が撮影した中国軍機の写真と飛行経路図を公表した。一方、中国人民解放軍当局は「今回の編隊飛行は長距離戦闘能力を向上させるための訓練である」と発表した。

■8機のミサイル爆撃機と早期警戒機、2機の情報収集機

この航空機編隊を形成していたのは、轟炸6K型(H-6K)ミサイル爆撃機8機、空警200型(KJ-200)早期警戒機1機、運輸8電偵型(Y-8DZ)電子情報収集機1機、ツポレフ154M型(TU-154M)情報収集機1機であった。

■「A2/AD戦略」実施のための機動訓練

このような多数の爆撃機編隊による長距離機動訓練は、人民解放軍の対米軍戦略である「接近阻止/領域拒否(A2/AD)戦略」の一環であることは明らかである。そのため、この種の中国軍機の動向に、アメリカ海軍をはじめとする米軍関係者たちはピリピリしている。

  
すなわち人民解放軍は、第2列島線と第1列島線に囲まれる海域のアメリカ海軍艦艇(もちろん自衛隊艦艇も)に対して、DF-21D対艦弾道ミサイルによって攻撃を仕掛けるとともに、空軍のH-6Kミサイル爆撃機や海軍航空隊のH-6Gミサイル爆撃機などによってもミサイル攻撃を実施して、第1列島線への敵艦の接近を阻止しようというのである。

■南沙諸島での米海軍の活動への牽制

 また今回の編隊飛行は、A2/AD戦略実施のための訓練という意味合いに加えて、南沙諸島でのアメリカ海軍の動きを牽制するという意味合いも持っている。なぜならば、今回爆撃機編隊が進出した西太平洋空域への中国大陸からの距離は、海南島の航空基地から南沙諸島の中国人工島周辺空域までの距離に対応しているからだ。
  
南沙諸島の中国人工島に3カ所建設されている3000メートル級滑走路(いずれもH-6爆撃機が使用可能)はいまだに航空基地として稼働が始まっていないため、南沙諸島周辺にアメリカ艦隊が展開した場合には、人民解放軍は海南島や西沙諸島の航空基地を本拠地にした戦闘攻撃機や爆撃機によって攻撃することになる。

  
今回の訓練には、戦闘攻撃機は同行しなかったが、8機ものミサイル爆撃機を繰り出しての訓練には「アメリカ海軍の南沙人工島周辺海域での活動に対する牽制」という目的があるのは明らかである。


■日本に対する警告、威嚇という側面も

アメリカの南シナ海での行動への牽制と同時に、巷で取りざたされている、日本政府が海上自衛隊の航空機や艦艇を南シナ海へ派遣することに対して警告を発したという側面があることも否定できない。

  
いくら機動訓練と言っても、ミサイル爆撃機8機というのは数が多すぎる。米軍関係者には「日本政府が南シナ海問題でアメリカに同調して、実際に哨戒機でも派遣したならば、人民解放軍は調子に乗って10機どころか30機の爆撃機編隊による“長距離機動訓練”を実施しかねない」と中国側によるエスカレートを予測している。

  
また、西太平洋上空での訓練の帰途、1機の情報収集機が尖閣諸島空域に接近し、爆撃機1個編隊が沖縄島沖から奄美大島沖空域を北上してから帰投したことは、安倍政権が南西諸島防衛強化にゴーサインを出したことに対応するデモンストレーションであると考えられる(これは逆に言えば、人民解放軍は南西諸島に地対艦ミサイル部隊や地対空ミサイル部隊が配備されることを嫌っているということの何よりの証左であろう)。


このような日本政府に対する威嚇的意味合い以外にも、Y-8DZ電子情報収集機とTU-154M情報収集機を同行させたということは、自衛隊とこの地域における米軍と自衛隊の対電子戦(ECM)能力の確認とELINT収集という実体的任務もこなしたと考えられる。


■日本へのアメリカの圧力はますます強まる

今回の多数のミサイル爆撃機による機動訓練だけでなく、人民解放軍は、対アメリカ軍のA2/AD戦略を実施するために、潜水艦や水上艦艇に加えて各種航空機を西太平洋に展開させるノウハウの涵養に多大なる努力を払い始めている。

  
その主敵であるアメリカとしては、なんとしてでも中国軍機や艦艇の動きを第1列島線内に封じ込めておきたいと考えるのは当然である。

  
しかし、人民解放軍はDF-21D対艦弾道ミサイルにとどまらず、ミサイル爆撃機や戦闘攻撃機から発射する各種ミサイルを質・量ともに飛躍的に強化してきている。そのため、かつてはせいぜい中国潜水艦に警戒する程度で比較的安全に第1列島線付近に展開可能であった米海軍空母打撃群による作戦も、厳しい状況になりつつある。

  
アメリカ政府はますます日本政府対して南西諸島防衛を強化するよう様々な形で圧力をかけてくることになるだろう。

  
ただし、アメリカにとっての南西諸島防衛と、日本自身の南西諸島防衛とは、若干意味合いが違う。日本政府がアメリカ政府や、いわゆる「ジャパンハンドラー」(日本を操る人たち)の言う“南西諸島防衛強化”に唯々諾々と従っているだけでは、日本国民に対する責務を果たせないことは明確に認識すべきである。
  

H-6Kミサイル爆撃機は、古くから人民解放軍が使用しているH-6型爆撃機ファミリーの一種であり旧式機との誤解を受けやすいが、2011年に1号機が就役したH-6爆撃機の新型バリエーションである。

  
この爆撃機は主翼に6基の大型ミサイルを装着できるようになっており、最大積載量は12トンと言われている。そのため、長剣10型(CJ-10)長距離巡航ミサイルを6基装着することができ、日本はもちろん西太平洋地域のアメリカ軍にとっては、恐るべき爆撃機である。ちなみにCJ-10巡航ミサイルの射程圏は少なくとも1500キロメートル以上と考えられているため、上海東方沖400キロメートル上空から東京を攻撃することが可能である。

  
H-6Kの主たる任務は、長距離対空ミサイルによって西太平洋上空の自衛隊と米軍の早期警戒機や早期警戒管制機を攻撃することにあると言われている。また、対艦攻撃ミサイルにより、やはり西太平洋に展開する自衛隊や米軍の艦艇を攻撃することも重要な任務とされている。

  
今回の訓練では、航空自衛隊が撮影した写真で明らかなように、H-6Kの主翼には当然のことながらミサイルは装着されておらず、ミサイル装着ポイントを鮮明に見ることができる。もっとも、ミサイルを装着したH-6Kミサイル爆撃機が領空に接近してきたならば、“専守防衛”の自衛隊といえども撃墜対象としなければならないのは軍事常識である(アメリカ軍ならば当然そうする)。

  
8機のミサイル爆撃機にKJ-200早期警戒機が同行したのは「長距離戦闘能力の訓練」である以上当然であるが、Y-8DZ電子情報収集機とTU-154M情報収集機を同行させたのは興味深い。

  
Y-8DZ電子情報収集機は、自衛隊や米軍の航空機や艦艇から発せられている「ELINT」と呼ばれる通信以外の各種電子情報を収集するためのハイテク情報収集機である。また、TU-154M情報収集機は合成開口レーダー(SAR)開発テスト用とされている高性能情報収集機である。航空自衛隊の写真でも明らかなように、旅客機扱いで登録されているTU-154Mには国際民間機番号(B-4029)が付せられている。


こうした現実を突きつけられても中国はさしたる脅威ではないとか、集団的自衛権は戦争準備だとか、寝ぼけたことを言うのか。日本の軍事費が5兆円を超えたなどとメディアが騒いでいるが、増えたのはほんの数百億で中国などは日本の5倍ほども軍事費を費やしている。日本が右傾化だの戦争準備だの米国追随だのと言う前にこの中国のことを非難したらどうなのか。日本人も平和ボケから脱却して少しは現実を見つめた方が良い。


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