7月下旬に中国の大手ポータルサイトである新浪網が、ロシア製最新鋭戦闘機Su-35の中国への輸出が決まったことを報じた。Su-35はスホーイ社設計の戦闘機の最新型で、対空と対地の任務が行える多用途戦闘機である。
最大航続距離は、中国本土から日本まで到達できる3,600km、高出力のパッシブ・フェーズドアレイ・レーダー、曲芸飛行のような動きを可能にする推力偏向ノズルを装備したエンジンを搭載している。ロシアでも昨年から配備が始まったばかりで、航空自衛隊が現在保有しているF-15JイーグルやF-2といった戦闘機と比較しても、スペック上は同等かそれ以上の性能を持つ機体だ。
そんな高性能な戦闘機が中国に輸出されること自体、軍事的側面から見れば大きな出来事といえるだろう。しかし、契約の詳細やこれまでの経緯を追っていくと、中国の戦闘機開発事情と、ロシアとの微妙な関係が浮き彫りになってくる。
◆勝手に独自モデルを生産する中国
今回の交渉で注目すべき点は、中国側の購入機数と、契約条項にリバースエンジニアリングの禁止事項が盛り込まれたことにある。中国は今回のSu-35以前にも、1995年にSu-27SKを購入して、その後ライセンス契約を結んで国内で機体の生産を行っている。
今回の交渉で注目すべき点は、中国側の購入機数と、契約条項にリバースエンジニアリングの禁止事項が盛り込まれたことにある。中国は今回のSu-35以前にも、1995年にSu-27SKを購入して、その後ライセンス契約を結んで国内で機体の生産を行っている。
機体はJ-11と呼ばれているが、中国はその後、ライセンス契約を無視して独自の改良を施したJ-11Bを生産している。2012年にロシアの未完成艦をベースにした中国海軍初の空母「遼寧」が就役して話題となったが、そこに搭載されていた艦載機J-15も、J-11Bと同様にロシアとの契約を無視した中国独自の改良機である。
◆中国がコピーする理由
当初、中国側が提示したSu-35の購入機数は4機のみで、これは戦闘機が戦力として使える数ではなく、明らかにコピーを目的としたものであった。そこでロシア側は、商業的に成立する数として48機の購入を求め、さらにはリバースエンジニアリングに関する禁止事項を盛り込んだのだ。
当初、中国側が提示したSu-35の購入機数は4機のみで、これは戦闘機が戦力として使える数ではなく、明らかにコピーを目的としたものであった。そこでロシア側は、商業的に成立する数として48機の購入を求め、さらにはリバースエンジニアリングに関する禁止事項を盛り込んだのだ。
結局、購入機数は24機に落ち着き、中国側がリバースエンジニアリングを試みた場合は、巨額の違約金が支払われる契約が結ばれたという。
中国といえば、戦闘機に限らず海賊版が横行して、コピー商品がたびたび問題となっている。それらコピー商品が作られる一番の理由は、経済的な理由だ。しかし、今回紹介している戦闘機の場合は、少々事情が違う。中国が戦闘機のコピーを行う一番の理由は、安全保障面から、兵器の国産化を進めることにあるのだ。
中国が最初にロシアから輸入したSu-27SKはロシア空軍の同型機と比べると、一部の機器の性能がダウングレードされたものであった。その後にライセンス生産されたJ-11も、レーダーやエンジンといった基幹部分の国内生産は許されず、ロシアからの完成品の輸入に頼っていた。また、性能面でも中国が今後の領土問題等で必要とされる対地攻撃能力が限定的で、機体の性能も満足のいくものではなかった。
戦闘機は非常に高度で複雑な物で、長期で運用するにはメンテナンス面でメーカーの支援が不可欠である。それらが国外の企業であった場合、時間的にもコスト的にも大きな問題となる。
海外製の兵器を運用する場合、このメンテナンス問題は日本を含めた各国でたびたび発生しており、その一番の対策は国内ですべてが完結する兵器の国産化なのだ。
本来ならば、ライセンス生産等で得た技術をベースに、独自の機体を生産するところだが、中国はそれをライセンス生産していたフランカーをベースにして進めていったのだ。こうして作られたのが性能向上したJ-11Bや艦載型のJ-15といった機体だったのである。
◆ロシアにとってのメリット
これまでのコピー事情を考えると、ロシアは中国との取引を中止してもおかしくないように思える。しかし、中国の事情と同様に、ロシアの事情も複雑だ。
◆ロシアにとってのメリット
これまでのコピー事情を考えると、ロシアは中国との取引を中止してもおかしくないように思える。しかし、中国の事情と同様に、ロシアの事情も複雑だ。
まず、中国にとってのデメリットがロシア側にとってはメリットになることが多い。自国の戦闘機が使われる限り、ロシア側はメンテナンスやサポートで長期的な取引が期待できる。また、自国製の兵器に依存させることで、相手国の防衛に一定の影響力が持てる。輸出する機体の性能を下げたり、必要であればサポートを打ち切って飛行できなくすることもできるのだ。
中国軍が軍用機で一番ロシアに依存しているのが、搭載されるエンジンである。戦闘機用のエンジンの開発はそれまでの技術の蓄積と経験が物を言う世界で、昔から継続して開発を重ねてきたメーカーしか開発製造できない。
機体フレームやアビオニクスを国内生産できるようになった中国も、エンジンだけは苦労しているらしく、独自開発を進めながらもロシアからの輸入品に大きく依存している。
今回、輸出が決まったSu-35にはAL-41F1Sという新型エンジンが搭載されており、このコピーが中国側の目的ではないかと噂された。しかし、メーカーの社長は「そのリスクはない。生産面でも技術面でも、中国側はロシア側を必要とする」とコメントしている。
商売とは需要と供給が一致して成立するものだが、売り手と買い手が必ずしも円満になることはない。これは中国とロシアの関係にも当てはまることであり、軍事という神経質な要素を含んだ二国間の取引は、潜在的な駆け引きの元に今後も継続していくだろう。
ロシアは金が欲しい。中国は技術が欲しいというところだろうか。戦闘機の開発でネックになるのは大出力エンジンだろう。これは日本も太平洋戦争当時から現在に至るまでずっと苦しんできた。機体は相応のものが作れてもエンジンだけはそうは行かない。太平洋戦争当時、日本は最後まで実用上安定した性能を発揮できる2千馬力の戦闘機用エンジンが作れなかった。戦後もF2戦闘機の国産問題で米国がエンジンの供給を拒否した時点で純国産戦闘機の開発を諦めざるを得なかった。F3でも推力15トン以上の大出力エンジンの開発がネックになっている。細々とエンジン開発を継続してきた技本とIHIは可能と言っているが、莫大な開発費がかかるだろうし、実際にそれで安定した大出力エンジンが出来るかどうか分からない。中国の場合は日本よりもさらに深刻なのだろう。J20だのJ31だの米国の戦闘機をパクッたような怪しげなステルス戦闘機を世に出してはいるが、その性能は??だろう。特にエンジンだけは金をかけてもどうしようもないようだ。中ロの関係は今のところ落ち着いているが、お互いに基本的には仮想敵同士で相手の腹の底を探り合いながらの取引だろう。開発に大金をかけられない日本の方が金をかけても出来ない中国よりも技術的にはややリードしているのだろうが、最新鋭戦闘機の開発と言うのは開発費の点で、すでに一国家では耐えられない負担になっている。これまで何とかやり繰りしてきた経済が怪しくなっている中国、先細りの日本、いずれにとっても次期主力戦闘機の開発は頭が痛いところなのかも知れない。いっそのこと、日中で手を組んで共同開発するか。それはあり得ないだろうな。
日本ブログ村へ(↓)