「さあ、早くお風呂を使ってきて。出てきたらちょっと話があるの。」
女土方は意味ありげな視線を投げかけた。僕はその女土方の目を見て何だか嫌な予感がした。
僕は男だった頃から風呂は汚れを落としてリフレッシュするためと割り切っていたのでゆっくり時間をかけて風呂を楽しむなんてことはなかった。大体、暑いところに長い時間いるのが苦手だった。女の体になってから髪を洗ったりするのにちょっと時間がかかるようになったが、それでも湯船に浸かるなどと言うことは滅多になくさっさと洗って出てしまうので風呂を使っている時間は短かった。でも洗うところはしっかり洗っているのだから特に問題はないだろう。
そんな僕が風呂からあがると女土方が、「カラスの行水みたいに短いわね。きれいに洗ったの」と僕をからかった。
『カラスの行水ってカラスは風呂に入るのかい』
そう聞き返してやるかと思ったが、面倒なので「洗うところは洗ったわよ」とだけ言い返した。
「じゃあ私が調べてあげるわ」
クレヨンがまた余計なことを言った。僕はクレヨンをバスタオルではたき飛ばしてやった。
「ねえ、さっきの話、もう一度彼女のところに行けってどうしたの。何かあったの。」
女土方は机の引き出しを開けるとDVDを取り出して僕に渡した。それはアダルトビデオだった。
「あら、とうとう出演しちゃったの。けっこう勇気あるわねえ。あんたも一緒に出たの。」
僕はクレヨンの方を見た。
「何の話よ。それって何、・・・。」
クレヨンは走り寄ってきてアダルトビデオを覗き込んだ。
「ええ、これってアダルトじゃない。あなたたち、とうとう出ちゃったの。勇気あるわねえ」
「おバカ、私はねえ、あんたたちが出演しているんじゃないかって心配しているのよ」
女土方はそんな僕等をにやにや笑いながら見ていた。
「まあ、良いから中身を見てみなさいって」
女土方にそう言われて僕はちょっと訝りながらディスクをプレーヤーにセットした。『淫らな森の妖精』などと言う下品な題名が画面に現れた。まあどこにでもあるような月並みな題名だった。僕はアダルトビデオは好きではない。何故かと言えば必ず毛むくじゃらの男のケツが出て来るからでそんなおぞましいものは見たくもない。それで男だったころからほとんどその類のビデオは見たことがない。あれって本当におぞましい。
そんな訳で詳しいストーリーは端折るが、要はハイキングに来て道に迷った若い男が森の妖精の家に迷い込んでそこで妖精とえッさほいさとやりまくる話だった。ずっとまじめに見るなんて面倒なので早送りで見ているとクレヨンは不満そうだった。
「ちゃんと見ないと分からないでしょう」
「あんたねえ、こんなものストーリーも何もないでしょう。大体何よこの妖精ってのは。けっこういい年のおばさんじゃないの。でもこの女、それなりに良い体してるわねえ、きれいじゃない。変なお面を被っているけど、・・。」
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