なんだか胸をドキドキさせながら電車に乗って家に帰ると何時もの通り豪華な食器に盛られた普通の食事が待っていた。その食事を取っていると女土方とクレヨンがやって来た。
「また悪いことでもしてきたんでしょう。」
クレヨンがまた余計な口を出した。僕はこのうるさいサルに飯のおかずのエビフライの尻尾を投げつけてやった。
「また愛を告白されてきたの。」
女土方が微笑みながら言った。この女の微笑みは迫力がある。僕は思い切りむせ返った。
「図星のようね。」
女土方はまたにっこりほほ笑んだ。
「愛の告白じゃなくて私の体を見たいと言われたわ。私は女を全く感じさせないんだって。彼女もちょっと変わっているわね。直情径行と言うのか思い込んだら一直線と言うのか、あの人って欲望の赴くままに生きているみたい。」
「それじゃあ、あなたと気が合うかもね。お疲れでしょう。早くご飯を食べてお風呂に入ったら。」
女土方はそう言うと席を立った。性欲に直情径行と言うのは知的美人も僕も似ているかもしれないが、僕たちが似ていると言うよりも知的美人がその点において男に近いと言うこと何じゃないのだろうか。しかし、女土方は嫌みを言ったんだろうか。僕は豪華な食器に盛りつけられた普通の晩御飯を食べると部屋に戻った。
「あら、見境のない中年女が来たわ。中年は欲望ぎらぎらなのねえ。」
クレヨンが僕を見てそうからかった。僕は無視して通り過ぎるふりをしてクレヨンを捕まえるとけつをひん剥いてペンペンと叩いてやった。
「あんたねえ、そんなことを言うならそのぎらぎらした中年女の欲望の餌食にしてあげようか。」
「いやー、やめてえ。でも優しくしてくれるのなら中年女の欲望の餌食になっても良いわ。」
クレヨンは抑え込まれたままそんな奇声を発した。そこへ女土方が歩いて来て僕の顔を掴むと濃厚なキスをして、「私も餌食にされても良いわよ」と微笑んだ。僕はクレヨンを放すと立ち上がって、「あーあ、何だかどこもかしこも淫らな欲望塗れねえ」と言うと風呂に入る準備を始めた。
「あなたって本当に何か不思議な魅力があるのね。その女なのに男のような性格もそうだけどそれ以外にも何か不思議な魅力があるのかもしれないわね。私にもあなたを自分のところにつなぎとめておくことはできないわ。だからもう束縛はしないけど必ず私のところに帰ってきて。いいわね。」
女土方が突然そんなことを言った。その表情は穏やかだったが、僕は女土方がその言葉を本気で言っているんだということが彼女の表情からよく分かった。僕は黙って女土方のところに行くと軽く肩を抱いて髪に軽く口を付けた。女土方はそんな僕をひょいとかわすと僕に向き合った。
「ねえ、あなた、もう一度彼女に会って来て。ちょっと変なうわさがあるの。できればそれを確かめてきて欲しいのよ。ちょっと厄介かもしれないけど。その代わり彼女とは何をしても良いから。」
『なに、・・・。』
僕は何だか嫌な予感がした。大体、うちの職場に来るのはろくなのがいない。その最右翼はクレヨンと営業君だろうけどクレヨンは役に立たないこと夥しいが、さほど致命的な害を及ぼさないので何とか面倒を見ている。営業君はひどかった。株屋のおっかさんもいただけなかったし、バイリン姉さんはこんな変態ばかりの会社にさっさと見切りをつけて転職してしまった。まあそれはそれで正しい選択とは思うのだが、・・。
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