防衛省で開発中の先進技術実証機(ATD-X)は今年8月にも初飛行が予定されています。レーダーに映り難いステルス能力とエンジンに装着される推力偏向ノズルによる高運動能力を実証するための実験機です。このATD-Xの成果を元に大型化した将来戦闘機F3(仮称)を開発するかどうかは、まだ正式な決定は行われてはいませんが、既に将来戦闘機の開発が決定した時に備えての準備と研究は開始されています。

 

ATD-Xの開発ではフランスの屋内施設を借りて模型を用いたレーダー反射断面積(RCS)の計測を行いましたが、これから日本国内に野外RCS計測施設を用意する予定です。同様の施設は中国でも建設途中の様子がGoogleマップの衛星写真で確認されており、本格的なステルス戦闘機の開発では必須となるものです。また実用戦闘機用の高出力エンジンの開発やレーダー、航空機電子装置(アビオニクス)、そしてATD-Xには装備されない内装式兵器倉の研究も行われています。

 

国産ステルス戦闘機を開発するための準備は着々と進んでいますが、防衛省の行う要素研究は必ずしも兵器として正式採用され量産されるとは限らず、これまでも基礎的な研究だけ行ってそのまま終わったものは多数あります。採用されずともそれは無駄ではなく、将来への投資と保険でありどの国でもやっていることですが、果たして日本の行っている将来戦闘機開発のための準備は実を結ぶことになるのでしょうか?

 

戦闘機の開発は以前と比べて大変に複雑化しています。良いエンジンと良い空力設計の機体があれば最高の戦闘機が出来上がる時代は過ぎ去り、ステルス設計、レーダー、光学センサー、アビオニクスといった新しい要素のどれもが重要です。良いエンジンがあれば良い機体が出来るという基本は変わってはいませんが、現在はステルス設計が必要となった上に高度なアビオニクスを用いたネットワーク戦闘が重視されつつあり、ソフトウェアの開発が大きな比重を占めてきました。



そのために戦闘機の単価は跳ね上がり開発費用もどんどん上がって、一国での単独開発が困難な時代になってきています。アメリカは開発中のステルス戦闘機F-35の計画では複数の国から出資を募りました。ロシアもPAK FA計画でインドに出資してもらっています。韓国のKFX計画は技術的に単独では無理なこともあり、アメリカのロッキード社に協力を求めています。ヨーロッパはステルス有人戦闘機の開発は要素研究だけで終わらせてステルス無人攻撃機の開発にシフトしていますが、複数国が参加しイギリスとフランスを中心に計画が統合される方向です。世界の主要なステルス機開発計画で、現在単独で行われているのは中国のJ-20計画とJ-31計画くらいになりますが、これは中国には予算的な余力があることと、政治的に中国と戦闘機開発で組める大国がいないことが関係しています。

 

それでは日本の状況はどうなのでしょうか? 財政は厳しく、防衛予算は増えていると言っても微増が続いているだけで大幅な増額は今後も望めません。そして武器輸出が解禁されて多国間共同開発の道が開けました。ただし多国間共同開発は「船頭多くして船、山に上る」というように、各国が勝手なことを言い出して開発方針が迷走し駄目になってしまうケースが過去に沢山ありました。共同開発が良いか単独開発が良いか単純に決め付けることはできません。

 

結局、日本が国産ステルス戦闘機を開発できるかどうかは予算を用意できるかに掛かっています。用意できなければアメリカと組むことになります。単独開発になった場合は入念に準備を行ってきていることもあり、それなりのものが出来上がるでしょう。しかし航空機開発で世界をリードしているアメリカですら、F-35計画では開発が難航し中止の危機に追い込まれかけた時期すらあります。戦闘機開発は容易な道程ではなく、難航して予算の追加が必要になった時に出せるかどうかが分かれ目となるでしょう。


要するに金の切れ目が縁の切れ目と言うことか。先端技術が手に入るし、航空機産業は裾野が広く、経済効果も大きく、技術の民間移転も期待できる。民間も金をつぎ込んでくれれば大出力戦闘機用エンジンの開発は可能だと言う。金をかければそれなりのものができると言うなら、公共事業の一種と考えて2,3兆円もつぎ込んでみればいいのではないだろうか。


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