1審裁判員裁判の死刑判決が控訴審で破棄され無期懲役となった2件の強盗殺人事件で、最高裁第2小法廷(千葉勝美裁判長)は、「1審判決は、死刑がやむを得ないと認めた具体的、説得的根拠を示していない」として、いずれも検察・被告双方の上告を棄却する決定をした。死刑を破棄し無期懲役とした2審判決がそれぞれ確定する。決定は3日付でいずれも裁判官3人全員一致の意見。検察官出身の小貫芳信判事は判断に加わらなかった。

 

裁判員裁判の死刑判断が2審で覆ったケースに対する最高裁の初判断。同小法廷は決定で、死刑を「あらゆる刑罰のうちで最も冷厳で、究極の刑罰」と指摘。昭和58年に最高裁が示した死刑適用の判断基準「永山基準」に基づき検討が重ねられてきたことなどを考慮し、「各要素を総合的に評価し、公平性の確保も踏まえて議論を深める必要がある」とした。

 

今回確定するのは、平成21年に東京・南青山で男性が殺害された事件と、同年に千葉県松戸市で女子大生が殺害された事件の被告2人。同小法廷は南青山事件について「前歴を過度に重視できない」、松戸事件について殺害が計画的とはいえない」といずれも無期懲役が相当とした。



■ 公平性と柔軟性 難しいバランス

裁判員の“国民視点”をどう反映するのか。控訴審の死刑破棄を正当とした最高裁決定の補足意見で、千葉裁判長は、「判例の集積からうかがわれる検討結果を量刑を決める共通認識とし、それを出発点として評議を進めるべきだ」と指摘。刑の公平性を踏まえる必要があるとした一方、「従前の判例を墨守するべきであるとはしていない」と、必要以上に先例に縛られない柔軟性も求めた。



これまでも裁判員の判断が控訴審で覆る度に「制度の趣旨が損なわれた」との批判が出た。千葉裁判長も今回の補足意見で、「職業裁判官のみで(判決が)変更されれば、導入の意味がないとの批判もあり得る」と認める。その上で控訴審に「裁判員裁判を、職業裁判官が専門家の感覚と異なるとの理由で安易に変更してはならない」と求めた。



それでは「国民視点の反映」をどう実現するのか。

検察側求刑の1・5倍にあたる懲役刑を言い渡した裁判員裁判判決を破棄した昨年7月の最高裁第1小法廷判決では、「裁判官は重要な事柄を裁判員に説明し、正しい理解を得た上で評議を進めるべきだ」との補足意見が付いた。今回の決定や補足意見はそこまでの注文を付けなかったが、裁判官と裁判員の「共通認識」を求めている。



最高裁は過去、裁判員裁判の目的を「国民の視点や感覚と法曹の専門性とが交流することで刺激し、それぞれの長所が生かされる裁判を目指す」と指摘。千葉裁判長も「国民の参加を積み重ねることで、長期的に見て国民の良識を反映した実りある刑事裁判が実現されることを信じる」との思いを込めた。制度の成熟に向け、刑の公平性を損なわない上で国民視点を反映させるためには、裁判員裁判を担当する裁判官の担う役割は大きい。



国民の参加による裁判の意義はよく分かる。裁判員裁判も裁判員に選ばれた市民の負担と言う問題を背負いながら、日本の司法制度の中でそれなりに有効に機能しているようだ。しかし、一般市民が量刑の決定にまで踏み込むことに問題はないのか。事件の被害者の心情もよく分かる。肉親を殺された者としては犯人に極刑を望むのも無理からぬものがある。しかし、一般市民の感情論で刑罰を決めてしまうとそれは私刑と同様にもなりかねない危険性を孕んでいる。無期懲役も決して軽い刑罰ではない。司法への市民の参加は米国の陪審員のように有罪か無罪かを決めるまでにしておいた方が良いのではないか。犯罪に対する量刑は司法の手に委ねる方が賢明なように思うが、どうだろうか。



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