「さっきから私の後をつけてきて監視でもしているの。私も生身の人間だから疲れることもあるわ」
 
 
ここに来て初めて感情をあらわにした』知的美人を見たのはやや新鮮な驚きだった。
 
 
「あなたもお疲れのことがあるのね、安心したわ。何時もは機械のように仕事をしているので、・・・。別にあなたのことを監視しているわけではないの。今日はちょっと何時もとは違うあなたを見たのでどうしたのかなと思って。悪く取らないでね。他意はないの。」
 
 
知的美人は何も答えずにタバコを消すとコーヒーを飲み干した。
 
 
「さあ、仕事に戻るわ。変に勘ぐられると嫌だから。あまり私のことを干渉しないで。給料分の仕事くらいはきちんとやるから。」
 
 
知的美人は僕に付け回されたことをかなり不快に思っているようだった。
 
 
「そんなに怒らないで。ちょっとあなたに興味を持っただけだから。ほかに他意はないの。仕事なんかいいのよ、私の会社じゃないし、そんなに働かなくても。ほどほどで。でもね、もう少し職場の人と交流しても良いんじゃないかと思っただけよ。」
 
 
 
「私は面倒なの、そういうお付き合いが。一人がいいのよ、だから放っておいて。」
 
 
「そう、分かったわ。それはそれでいいと思う。でもたまには話でもしようよ。あなたにしてみればお節介かもしれないけど話したら面白そうに思うの、あなたと。」
 
 
僕がそう言うと知的美人は僕の正面に立ってきりっとした目で僕を見つめた。その時僕は何時か女土方に更衣室で唇を奪われた時のことを思い出してちょっと身構えた。
 
 
「どうしたの、取って食おうなんて思っていないわ。でもあなたって女を感じさせない人ね、何だかかすかに男の匂いがするわ、あなたを見ていると。不思議な人ね。」
 
 
 
知的美人はそう言い残すと僕の脇をすり抜けるようにして外に出て行った。
 
 
 
僕が部屋に戻ると知的美人はもう自分の席に着いて何時もと変わらずに仕事をしていた。そしてそれは終業まで変わることなく続いた。終業時間になると知的美人は何時ものようにさっさと仕事を片づけて帰り支度を始めた。そしてさっさと帰るかと思ったら僕の方に歩いて来て、「ちょっと話があるの」と部屋の外を示した。
 
 
 
「別に良いけどどんなことなの」
 
 
僕がそう聞くと知的美人はちょっとゆがんだ笑顔を見せた。
 
 
「話したら面白いかもと言ったのはあなたでしょう」
 
 
確かに僕はさっきそう言った。
 
 
「分かったわ、どうすればいい」
 
 
「ここを出ましょう。外で待っているわ。」
 
 
知的美人はそう言うと一人で部屋から出て行った。
 
 
日本ブログ村へ(↓)