「確かに取っつき難いと言うか、あまり他人に媚びないところはあるようね。自分のテリトリーをしっかりと持ち過ぎというか。でもそれはそれで良いんじゃないかな。別に悪いことじゃないんじゃないの。べたべたされるよりはさっぱりとしていて。何かを隠しているって言っても振り込め詐欺や売春しているわけでもないでしょう。」
 
 「うん、そうかもしれないけど何だかまたトラブルを持ち込まれそうな気がするの。どんなトラブルって聞かれても何とも言えないけど。」
 
 女土方は知的美人が相当に気になるようだったが、僕にはあまりピンと来なかった。あの程度の自分流は当たり前のようにそこここにいたので何とも思わなかった。
 
  他にあの女が何かと寝もないことをしていると言う感じはなかったが、何しろ鈍い方なので女土方のようには敏感には感じなかったし、ほとんど気にもしなかった。そんなことよりも別の意味ではちょっと興味があったが今のこの姿では言っても意味もないことだった。そこにほかの客の相手をしていたママが戻って来た。
 
  「今度新しい人が入ったそうね。咲ちゃんはちょっと戸惑っているようだけどどんな人なの。あなたみたいな素敵な人かな。」
 
 僕みたいな素敵な人かと言われても僕自身が女として素敵かどうかも分からないし、僕自身女という自覚もないので何とも答え辛かった。
 
 「この女は並外れて凶暴な女だけど今度来た女は並外れて冷たい女よ。せっかく歓迎のつもりで買ってあげたケーキも放り出して帰ってしまうし、歓迎会もあっさりと袖にしてさっさと帰ってしまうし。本当にひどい女、あの女は。」
 
 クレヨンは相当にケーキのことを恨んでいるようだった。それにしても僕のことを並み外れて凶暴とはどういうことだ。何が狂暴か見せてやろうか、このサルに。
 
 「きれいで頭のいい人よ。私なんかよりもずっときれい。でもちょっと自分流というのかな、他人とうまく合わせて丸くやって行こうと言うところに欠けているのかも。仕事なんだからやることをきちんとやってくれればそれでいいんだけど。並外れてお仕事に鈍いその辺のお嬢様よりはずっとましかも。」
 
 ママは肯きながらちらちらと女土方の方に視線を投げていた。女土方の雰囲気が気になるようだった。もしかしたら僕と女土方の間に強敵が現れたとでも思っているのだろうか。でも僕も女土方という良きパートナーがいて、その上にクレヨンと時々じゃれ合っているんだからもうこれ以上の負担は無理かもしれない。
 
  でも、向こうが乗ってきたらどうなるかあまり自信がない、なんてところが体がどうあろうと男の男たる所以なんだろうか。
 
 「職場に入ったばかりで慣れないこともあるんじゃないの。そのうちに慣れてくれば変わるかもしれないわね、その女の人も。機会があったらここに連れてくれば。」
 
 ママはこの話をこれ以上引っ張っても無駄と思ったのか当たり障りのないところで締めくくったようだった。僕らもそうしたママの気遣いが分かったのでこれを潮時に話題を変えることにした。
 
  それから後は特に深刻な話題も出ずにのんびりと時を過ごして日付が変わる少し前にタクシーを呼んでもらって店を後にした。店を出る時に入り口近くにいたカップルの話声が耳に入った。
 
  そのカップルはアダルトビデオに誘われているようだった。確かにビアン物はいろいろとあるのかもしれないが、僕には縁のない話と聞き流してタクシーに乗り込んだ。そうしたら車の中でクレヨンが突然AVの話を切り出した。
 
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