募集をかけてから一週間もすると応募の書類が届き始めた。応募者は大学を出たばかりの若いのから相応に社会人として生きてきた年配者までかなり幅が広かった。
 
さして高給でもないのに結構な応募があると言うのはやはり不景気なせいだろうか。それとも外国語という自分の特技を生かした仕事をしたいのだろうか。
 
僕は応募者をエクセルで一覧にして印刷した。こんなのが来ていますと社長に報告しないといけないので。女土方もそばに来てのぞき込んで、「予想に反してずい分応募があったわね」とやや驚いた風情だった。
 
「でもやっぱり女性が多いわね。男の人は第二の人生と言った再就職希望の年配者が多いわね。待遇面でそうなるのかな。この待遇じゃあ一家を養ってはいけないものね。」
 
女土方は何となく感慨深げだった。自分の境遇をダブらせているのだろうか。考えてみれば僕たちの給与にしてもそう変わらない。正社員ということで身分が保障されていると言う程度だろうか。
 
今は金融王の家に入って半分居候のような生活だから金もそうかからないが、都内に一家を構えて生活するとなると何かアルバイトでも考えないといけないかもしれない。
 
 「ねえ、この人、すごいじゃない」
 
クレヨンがまた素っ頓狂な声を上げた。また何を見つけたんだろうと振り向くと応募者の履歴書の一枚を引っ張り出していた。
 
 「この人結構長くアメリカで生活しているし、一流の大学を卒業しているじゃない。どうしてここに応募してきたんだろう。もっといい仕事に就けるだろうに。」
 
 「ああ、その人ね、年齢が行っているので今時なかなか難しいんじゃないの、一流というのも。」
 
 「そうかあ、私もいい加減に何とかしないと年取ってしまうわね。考えようかなあ、行く先について。」
 
 このサルはいまさら人生を考えようとはいい度胸だ。放っておけばまともに大学も出られなかった奴が何が人生を考えようだ。ずうずうしいにもほどがある。
 
 「あんたは自業自得でそうなっているんだから行く先を考える前にこれまでの人生を顧みて懺悔でもしていなさい。」
 
 もっともこいつの場合は懺悔などしなくてもサル並みの愚かな人生を十回くらい繰り返しても安泰なだけの資産はあるだろうか。
 
 「その人私も気になったのよ。経歴だけで見れば群を抜いているわよね、その人。でも何だかちょっと引っかかるのよね、その人。どうしてって聞かれてもこれといった具体的なことは何もないんだけど。」
 
 女土方が何かを感じ取ったのかそんなことを言った。確かに経歴を見れば外資系でも日本企業でも相応のところに行けそうな経歴だったし写真もなかなか知的な美人だった。それがどうしてこんな場末の外国語教材会社なんかにと考えれば何となく裏があるのかもしれなかった。
 
でも裏があろうがなかろうが、要は仕事をやってくれればいいのだから裏だの表だのと深く考えても仕方がないだろう。第一今のぼくは女なのだからどんなにいい女でもちょっかいの出しようもないし。
 
 社長のところに応募者の一覧を持っていくとやはり社長も例の女に目を止めたようだった。
 
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