「私ね、この人ともう一度やり直そうと思うの。一緒に暮らして。」
 
 まあ、あの様子を見ているとそれもありかなとは思ったが、どうしてそういう結論になるんだ。あまりにも振り子が振れ過ぎるんじゃないのか。
 
  「私ね、今まで色々な人とお付き合いをしてきた。その場だけの人も多かったし、セックスして次の日になると『あ、ちょっとやり過ぎちゃったな』って思う程度で忘れちゃう人もいたし、お付き合いしてもその場だけ楽しければいいってそんな感じだった。私も相手のことなんかそんなにかまいもしなかったし、相手も似たようなものでその場だけのお付き合いが多かった。」
 
  テキエディはちょっと言葉を切って例の男の方を見た。例の男もテキエディを見返した。テキエディの男係は僕から見れば目に余るものがあったが、人にはそれぞれ生き方があるのであまり口出しはしなかった。
 
  僕は体は女になってしまったが、心は男のままだから男と絡もうとは夢にも思わないが、見たい、やりたいと思っている男の立場からしても女が自分の体を男の前にさらけ出すというのはなかなか勇気のいることだと思う。だからテキエディが次から次と男と関係を持っていくテキエディにはある意味何がしかの敬意をもって眺めていた。
 
  「私は誰かに支えてもらっているという感覚がないとだめなの。それが口先だけのものでも誰かなそう言っていてくれないと自分が崩れそうになってしまうことがあるの。
 
  でも男たちは私を都合の良い女と思っているようで本気で私のことを心配して支えてくれる人はいなかった。だから私もその場だけ男たちを利用しては次から次と乗り換えてきたわ。
 
  でもね、この人は違ったの。本当に私のことを心配して支えようとしてくれた。私はこれまでと一緒だと思っていたからこの人とも適当にお付き合いして自分の心をその場だけ満たしてサヨナラしようと思ったの。
 
  だからこの人はあんなことをしたの。それは私が悪かったんだわ。今回のことで話をしてみてそれが分かったの。この人は心の底から私を愛して心配してくれているんだって。だから今度のことはもう何も言わないことにしたの。
 
  写真も削除してくれたし。みんなには迷惑をかけて本当にごめんなさい。感謝しているわ。でも私のわがままを許してね。」
  
  許すも許さないもそう決めたのなら何も言うことはない。仮に言ったとしても聞く耳持たないだろう。
  
  「二人でそう決めたのなら私たちは何も言うことはないわ。これから先二人で穏やかに生きてくれればそれでいいんじゃないの。私たちにできることがあれば応援するわ。」
  
  僕は女土方を振り返った。女土方も黙って肯いた。こんな状況で僕たちにできることはないので応援するは僕としては単なる社交辞令だったが。
  
「ありがとう。でも何とかやってみるわ、迷惑をかけないように。」
 
  テキエディは目尻をぬぐった。まあ本人には感動的なのかもしれないが、こちらとしては唖然・呆然と言ったところだった。
 
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