この家の応接スペースは玄関わきに備えられているが、完全防弾ガラスの窓と防弾ドアを備え、いざという時は外から出入り口を閉鎖することができる。内部の様子はビデオカメラでモニターできるし、出入り口も遠隔操作で開閉出来る。
金融王がどうしてこんな部屋を設えたのか分からないが、以前に業者から聞いたところによるとドアも窓も壁も手榴弾くらいは朝飯前で耐えるということだった。
まあ自分が閉じ込められている部屋の中で手榴弾を使うバカもいないだろうが。そんな部屋があるのでそこでテキエディと相手の男を面会させればいいというのが僕の考えだった。
玄関先に車を止めると僕は真っ先に車から降りた。例の男もさっさと車を降りて金融王の豪邸を見まわしていた。それも無理はない。普通の庶民にこんな家を見る機会はそうないだろう。
女土方に続いてテキエディが車から降りてきた。例の男はゆっくりと振り返って二人は車を挟んで向き合った。
「二人でよく話し合ってください。穏やかに。どうぞこちらへ。」
僕は二人を例の部屋に案内した。内装はなかなか立派で知らなければまさか要塞のように頑丈な部屋とは思わないだろう。
僕たちは部屋のドアは解放したままで奥の居間に下がった。ここで部屋の中の様子は一部始終モニターできるのだが、音声は落としておいた。
やはりこんな場合でもプライバシーは尊重しないといけない。
「どうして声が聞こえないの。」
サルがまた余計なことを言い出した。この女には下劣な好奇心しかないのだろうか。
「あんたみたいにろくでもない好奇心しか持ち合わせていないのがいるからよ。他人の話を盗み聞きするのは淑女のたしなみじゃないでしょう。」
僕はそう言ってサルをたしなめたつもりだったが、サルはいたって不満のようだった。
「なんだ、つまらないな。どういうことになっているのか興味津々だったのに。ちょっと様子を見てこようかな。」
「様子だったらここにいても分かるでしょう。おとなしくしていないと首輪をつけてその辺に繋ぐわよ。」
僕がサルの襟首を捕まえて引き戻すとその時女土方の「アッ」という叫び声が聞こえた。
いつも冷静なあの女土方が叫び声をあげるなんてただ事じゃない。いよいよあの部屋の機能を発揮する時か。緊張感が走った。
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