「大変、大変よ」
ドアの外でサルのわめき声が聞こえた。何が大変何だか分からないがこいつが騒ぎ出すとろくなことがない。僕は立ち上がってドアを開けた。
「どうしたのよ、普通にできないの、あんたは」
僕がそう言うとクレヨンはハアハアと息を弾ませながら、「エディが出て行くって。荷物をまとめているの。」と告げた。まあ、どうせそんなことだろうと思った。
確かに自分の生活を他人に規制されるのは楽しいことじゃないのは僕にもよく分かる。僕だったら耐えられないだろう。僕は女土方を振り返った。女土方は困ったわねというような表情だったが、何も言わなかった。
「しょうがないわね」
僕は一言そう言うとクレヨンの部屋に向かった。そして部屋に入るとテキエディが荷物をまとめていた。
「ごめんね、いろいろ迷惑をかけて。みんなには感謝しているわ。でも自分でやったことだから自分で始末をするわ。今向こうに電話したの。話し合いなら応じるっていうから。おかしなことをするつもりもないって。だから話しに行ってくるわ。終わったら連絡するから。だから心配しないで。あなたには迷惑をかけてごめんなさい。ここにいると何だかみんなに甘えたくなって。だめね、私って。弱くて。」
こう冷静に言われてしまうとこっちも何とも言うことも言えなくなってしまう。ただ、荷物をバッグに詰め込むテキエディを見ているだけだった。何時の間にか女土方とクレヨンも来ていて様子を窺っていた。
「どうするの、このまま行くの。」
「一度、家に帰って荷物を置いてから行くわ。こんな大荷物じゃあ逃げ回っていたと言っているようなものだから。」
「そう、じゃあ送っていくわ。」
僕がそう言って振り返ると女土方も黙って頷いた。彼女もこうまで冷静に言われたら止むを得ないと思っているんだろう。
「気を付けてね、無理しちゃだめよ。」
クレヨンが声をかけた。無理しないでって何を無理するんだろうなどと考えながら手早く支度をして車を取りに外へ出た。最近この家の車庫の車はちょっと変わっていた。
生産数限定で売り出した国産の最高級スポーツカーに同じメーカーのスポーツセダンになっていた。そのスポーツセダンが足代わりのお買いもの車だった。
車を玄関に回すともう三人が出ていた。車をつけると真っ先にクレヨンが助手席に乗り込んだ。テキエディは後ろを振り返ってちょっとためらうような様子を見せたが心を奮い立たせるように首を二、三回振ると車に乗り込んだ。
そして最後に女土方が乗り込むとドアを閉めた。車を発進させると門の前でダッシュボードのスイッチを押した。ゲートがゆっくりと開いて行く。何だかSFに出てくる未来基地から出撃する戦闘艦のような雰囲気だった。
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