「ねえ、さっきから黙って一人で食べているけど当事者として何か言うことはないの。」
またどサルが余計なことを言い出した。当事者とはどういうことだ。状況をややこしくするような発言をするんじゃない。このバカ、二度とものが言えないように顎をボルトで止めてやろうか。
そう思いながら睨みつけるとサルは体を引いた。知恵はないが、危険を察知する能力だけはあるようだ。
「テキエディも困っているんだから私はできることは何でもしてあげるわ。でもその夜伽の相手というのは私のできることじゃないわ。それ以上はこれについては何も言うことはないわ。それよりもこのから揚げおいしいわね、ころもがカリッとしていてたまらないわ。味付けもなかなかいい感じ。」
そして僕はここで使っている超高級ラー油を手に取るとから揚げの上にふりかけた。ほんのりとゴマの香りが広がった。
「またこの辛みとゴマの香りがたまらないわね、スーパーの百円ラー油とは比べ物にならないわね。味が引き立つわ。」
そういうとバリバリとから揚げをかみ砕いた。三人が僕を見つめている視線は感じていたが、まあ、今はもめごとよりもから揚げだろう。それに今は余計なことはしないで食い続けるのが僕にとって最も安全だと確信していた。
そうして散々食いまくると、「ああ、食べたわ。」と言って食器を下げて部屋を出た。こんな場合、慌てても仕方がないし、言い訳も却って逆効果だろう。テキエディの不安な気持ちは分かるが、それは僕にはどうしようもないことだし、それを何とかしてほしいと言われても僕には手も足も出ないことだから。
僕は食器を片づけてさっさと部屋に戻ってテレビを見ていた。番組の内容を楽しんでいたというよりは画面を見ながらテキエディのことを考えていたと言った方が当たっているかもしれない。そこに女土方が戻ってきた。
僕はテレビの画面を見つめたまま女土方の方を振り返ることはしなかったが、神経は彼女の動きに集中していた。そうして神経を集中していると女土方がこっちに近づいて来るのが分かった。
平静を装ってはいたが女土方の気配に心臓がどきどきした。女土方は僕のほうに歩いて来ると僕の隣に腰を下ろした。そして僕の腰に手を回した。
「あなたって本当に誰にも好かれる人ね。そばにいると安心感があるからだからみんなそばに寄りたがるんでしょうね。それに普通の女とは全く違う匂いがあるし。だから私みたいな女じゃなくても惹かれるんでしょうね。でも私のそばにいなきゃダメ、いいわね。」
女土方は僕に体を寄せてきた。こんな状況になるとついその気になってしまうのだが、時間も早いしまた何時あのサルが飛び込んで来ないとも限らないので女土方の肩を抱いて「ずっとそばにいるわ」とささやく程度で我慢しておいた。そしてそれは正しい判断だった。
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