そうしてああだこうだとぐずるテキエディを引きずるようにして家路についた。そんなにやりたきゃやってやってもいいんだけど一度手を付けてしまうとずるずると際限がなくなってしまうだろう。
この手の女はそういう類だ。それではこっちの身が持たないし何よりも女土方との関係がある。男の僕にしてみればつまみ食いなど何でもないことだが、一生の関係と思っている女土方との関係を壊してまでこんなところでつまみ食いなどしていられない。テキエディにしても本当にそれを望んでいるわけでもないだろう。不安な中で寄りかかれるものもなく手近なところで僕にそれを求めようとしているんだろう。
家に帰るともう女土方とクレヨンが先に帰って待っていた。そして着くが早いかクレヨンがどうだったと聞いてきた。弁護士と話をしただけでどうにもなるもんか。こいつは本当に骨の髄までバカな奴だ。
「まだ始まったばかりでこれからでしょう。」
女土方がクレヨンを軽くたしなめた。
「さあ、メンバーがそろったから食事にしましょう。」
女土方はそういうと食堂に下りて行った。僕もさっさと着替えるとクレヨンとテキエディを追い立てて食堂へと降りた。食堂に入ってテーブルの上を見るとから揚げが皿に積まれていた。
今日はから揚げ定食のようだ。何だか腹が減っていた僕はテーブルに着くとから揚げを自分の皿に取り分けてさっさと食べ始めた。クレヨンも自分の皿にから揚げや野菜を取り分けて食べ始めた。それを見ていた女土方も腰を下ろすとから揚げに手を出した。豪華な食器に普通の料理というのがこの家の定番だが、味はなかなかのもので悪くなかった。
しばらく黙ってそれぞれ食事をしているとそれまで料理に手を付けなかったテキエディがいきなりとんでもないことを言い始めた。
「ねえ、チーフ、私、温もりが欲しいの。でも一人でここを出られないから誰にも会えないでしょう。だからサブをお借りしたいの。チーフとサブの仲はもちろん知っているわ。二人の関係を壊そうなんて思わない。でもちょっとだけ、ちょっとだけで良いから私の気持ちを落ち着かせてほしいの。ね、チーフ、お願い、お願いだから。」
あまりのことに僕は口に入れていたものを吹き出しそうになったが、その前に「ぐっ」といううめき声を挙げたのがいた。それはクレヨンだった。クレヨンもあまりと言えばあまりのことを突然言い出したテキエディにびっくりたまげたのだろう。
「ほらほら、大丈夫。落ち着いてゆっくりと飲み込みなさい。」
女土方はクレヨンの背中を軽く叩いてやっていた。この女はこういう時は本当に落ち着いてふるまうのがうまかった。本当に落ち着いているのか心の中は見えないが、外見は全く動じている風は見えなかった。
「ね、お願い。良いでしょう。」
テキエディが念を押そうとした。その時、クレヨンを介抱していた女土方がゆっくりと振り返った。
「私がいいとか悪いとかいうことじゃないでしょう。そういうことは二人で決めればいいじゃない。結果を伝えてくれれば私はその時に考えるわ。」
女土方は静かにそう言うとテキエディと僕をゆっくりと交互に見据えた。その目が僕を捉えた時に背筋を冷たいものが走った。
『おお、こわ。』
こういう時の女土方は本当に怖い。これは本当に怒っている。以前に女土方とこじれた時があるが、あの時は本当に大変だった。今回も何だか嫌な雰囲気になってきた。テキエディの不安な気持ちが分からないでもないが、だからと言って色恋沙汰で僕を巻き込まないでほしい。
貸すの貸さないのって僕は道具じゃないんだから。でも今じたばたするのは得策じゃないと判断してこの場は自分の飯を食うのに徹することにした。何しろから揚げ好きなもので。特に竜田風のカリッとした奴が。何時もは晩飯はできるだけ軽めにしているのだけど今日は食ってやる。
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