柔軟性や科学的合理性がなくバカな陸軍と言われるが、暗号に関しては海軍よりも陸軍の方が進歩的だったようだ。海軍は機械式暗号と乱数表を併用した暗号(D暗号)などを使用していたようだが、これが米国に解読されていたのは周知の事実だ。米国は日本海軍の行動と暗号を照らし合わせてその規則性を徹底的に解析して暗号を大筋で解読していたという。もちろんすべてを読めたわけではなかったのだろうが、大筋で内容が分かれば相手の行動を先読みして対応することが出来る。ミッドウエイ海戦も山本連合艦隊司令長官の待ち伏せも暗号を解いていたのでは勝負にならない。
海軍の将官の中には暗号が解読されていることに気が付いてそれを具申していた人もいたようだが、海軍は機械式暗号に絶対の自信を持っていて暗号が解読されていることはあり得ないとして何らの対策をしなかったようだ。海軍は兵器の攻撃性や運用といった直接戦闘にかかわることは全力をつぎ込んでいたが、暗号や情報にはあまり熱意を持って取り組まなかったという。情報を担当する士官は病気やけがで療養中の士官を割り当てたなどと言うこともあったようだ。
海軍の兵器は基本的に攻撃一辺倒で防御と言うことを軽んじていたのは陸軍の先を行っているかも知れない。一式陸攻が防弾なしで製作されたことなどはそのいい例だろう。陸軍は申し訳程度ではあっても97式重爆には防弾が装備されていたという。用兵思想が異なることもあるだろうが、太平洋を侵攻してくる米国主力艦隊に乾坤一擲の決戦を挑んでこれに勝利するという迎撃作戦にすべてをかけていた海軍は損害を厭わずにその一戦に持てるすべてをつぎ込むつもりだったのだろう。
陸軍の暗号は乱数表を1回だけの使用とする無限乱数と言葉を数字に置き換え、それをさらに乱数化する特別計算表を用いて強度を上げ、機械式暗号は必ず解読されると使用しなかったようだ。そのために一部を除いて陸軍の暗号は米国には解読されなかったという。また陸軍は暗号や情報教育に熱心で部内にも暗号教育を徹底していたという。
そのため、陸軍は米国の機械式暗号を一部解読していたという。これは米国の暗号には頭に特定の文字列が必ずあることに着目して解読に至ったのだという。また米国が暗号機を切り替えてからも旧暗号機と新暗号機で送信した同じ暗号文を比較対象して強度が高いと言われたストリップ暗号を解読していたという。その後、さらに改良された「N209」という米国の暗号も同じ乱数配列を2回使用した電文を発見してそれを手掛かりに解読に成功したという。
戦争末期、米国の暗号を全く解読できずに電文の方向性や頻度などで米軍の動きを推定していた海軍に比べ、陸軍は、航空機の動きと電文を比較対照することで推論を立て、米国の航空隊が使用する比較的強度の低い暗号を解読していて原爆を搭載したB29など特殊機の動静もある程度は把握していたようだ。
陸軍と言えば、どうも過度の精神主義や銃剣突撃などの白兵一辺倒で科学的な理性などなかったように言われているが、暗号に関しては海軍の方がはるかに非科学的だったようだ。陸軍は暗号の解読に数学者や言語学者を動員し、当時日本に1台しかなかったというIBM製のコンピューターも使用していたという。兵器の攻撃力と運用一辺倒だった海軍よりはこの点では陸軍の方がはるかに進歩的で科学的だったようだが、それはマキャベリズムの権謀術策を好んだ陸軍の性格的なものだったのだろうか。
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