金星は、第二次世界大戦期に三菱重工業名古屋航空機製作所発動機部門が開発・製造した航空機用空冷星型発動機である。海軍に金星として採用され、海軍の主力エンジンとして多くの海軍機に搭載された。金星は第二次大戦後期には陸軍にもハ112として採用され、陸軍機にも搭載された。
 
この発動機は最終型の62型で離昇出力1500馬力を達成したが、その出力自体は当時としては取り立てていうほどのものではない平凡な発動機だった。しかし、当時の航空機用発動機としては極めて安定しており当時の日本の劣悪な環境でも問題の少ない発動機だった。
 
その後、零戦に装備されていた栄発動機を18気筒化した中島の「誉」や金星を18気筒化したハ43など2千馬力級航空機用発動機が出現したが、当時の日本ではその高性能を技術的に支えきれず、良質の燃料・潤滑油の欠乏などと相俟ってトラブルが続出し、あるいは試作の域を出ずに本来の高性能を発揮することなく消えて行った。
 
結局、日本の実用航空機発動機は戦闘機などの小型機用が栄・金星、爆撃機などの大型機用が火星あるいはハ109などで日本では最後まで実用として安定した2千馬力級航空機用発動機は完成することがなかった。
 
この金星を装備した当時の軍用機は、96式陸上攻撃機、99式艦上爆撃機、水上爆撃機瑞雲、百式司令部偵察機などで零戦のような派手さはないが、極めて安定した実用軍用機ばかりだった。
 
また、本来装備していた発動機の不調で金星に換装したものは三式戦闘機の水冷発動機ハ140を金星に操艦した5式戦闘機、同様にアツタ32水冷発動機を金星に換装した彗星33型などがあるが、いずれも速度こそ若干低下したものの稼働率が向上し、使いやすい実用機に変身したという。
 
試作で終わったものには、四式戦闘機のハ45を金星(ハ112Ⅱ)に換装したキ116があるが、速度こそ若干低下したが、軽量化により運動性や操縦性が向上し300馬力の低下を補って余りあるものだったと言われている。零戦も最後に金星に換装しているが、機体の補強や装備が増加して鈍重になった零戦を甦らせている。二式複座戦闘機の後継として開発されたキ96は、速度、運動性ともになかなかのもので雷電とともに垂直上昇が出来る高性能機だったようだ。
 
太平洋戦争時、日本は航空機の開発で、より速く、より軽くを追求して技術が追い付かずに自滅した。平時であれば高い目標を立てて時間をかけてその目標に挑戦することも意味のあることだが、一刻も早く実用性のあるものを戦線に投入しなければならない時には確実なものを組み合わせて得られうる範囲内で一定の性能を求めることも必要だっただろう。
 
貧すれば鈍するではないが、戦争後期の日本は身の程を超えた高性能を生真面目にひたすら追求し、自滅したが、確実なものを組み合わせて一定の性能を得るという冷静さがあっても良かったように思う。技術と言うものは合理的なものでどんなに努力をしてもそれを超える結果は得られないし、それが飛躍的に進歩することもない。しかし、それを言うなら当時の国力で英米など世界の大国に喧嘩を売ったことそれ自体が身の程を弁えなかったというべきかもしれない。
 
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