今回の防衛白書は対中リポートの色彩が濃い内容となった。対中シフトを打ち出した「防衛計画の大綱」策定を受け、当然の帰結ではあるが、肝心の「抑止と対処」で実効性が担保されていないことは白書をみても明白だといえる。やはり民主党政権の安全保障政策は「消化不良」と指弾せざるを得ない。

対中脅威認識では、海洋権益確保に向け、海軍のほかに法執行機関による監視活動の強化にも注目した。航空戦力も、3月にY8哨戒機が尖閣諸島付近で日本領空の約50キロまで接近したことを例示した。

国際社会の安全保障上の課題でサイバー攻撃への懸念を強めたのも対中脅威の認識が根底にある。中国はサイバー専門部隊も編成するなどサイバー戦に強い関心を持つ。米国に対するサイバー攻撃は中国発が疑われるケースが多い。危機感を強めた米国は、サイバー空間を陸海空・宇宙と並ぶ「第5の戦場」と位置づけており、日本側もこの動きに歩調を合わせた。

そうした脅威認識に基づく「実効的な抑止と対処」の節では、対中シフトをより鮮明にさせた。前大綱期間(平成17~22年)に貫いた優先順位を一変させたことがその証左だといえる。

これまでは北朝鮮を念頭に(1)弾道ミサイル(2)ゲリラや特殊部隊-の攻撃への対応をトップ2に据えていたが、今回は(1)周辺海空域の安全確保(2)島嶼(とうしょ)部攻撃への対応-に入れ替えた。中国による東シナ海の離島侵攻への警戒感を表している。

だが、「抑止と対処」の実効性については甚だ疑問が残る。大綱は「動的防衛力」で対処すると掲げたが、その根幹をなす機動展開や警戒監視などの態勢整備は伴っていない。

また白書では「実効性向上のための構造改革」を検討中だと説明したが、これは中身が詰まっていない「宿題大綱」であると認めたに等しい。
 
日米同盟についても「同盟の深化」という節を設けたものの内容は薄い。同盟深化の障害となっている普天間問題に至っては、自民党政権下の合意案に舞い戻り、移設期限も先送りした1年の経緯をわずか6行に圧縮。沖縄の負担軽減と普天間の危険性除去についても「全力を尽くしていく」とむなしく記しただけだった。いかに政権が無策であったかを物語っている。
 
自らが打ち立てた「動的防衛力」をずい分と自画自賛した白書になっているようだが、安全保障は言葉遊びではない。構想を裏付けるだけの実力があっての防衛力であり、安全保障だ。動的防衛力というならば有力な部隊と火力を迅速に移動させるだけの機動力がなければ機能しない。
 
平時に部隊を駐屯させておく場所、有事に必要な部隊を必要な場所に移動させる手段、要はそれが確保できるかどうかで、「基盤的防衛力」も「動的防衛力」も同じことだろう。政権交代をしたのだから何でもかんでも変えてやろうという子供じみた政策もレベルが低い。それは何も安全保障に限ったことではないが、無策無能は日本を衰退へと導くだけだ。
 
確実な安全保障はないが、もしもやるのなら日本とその周辺の制空権を確保するための航空戦力、海上侵攻勢力を撃破できる航空戦力と海軍力、そして同盟国だろう。専守防衛では陸上兵力は最後の手段で上陸されたらそれを撃退するのはかなり難しいだろう。
 
しかし、幸いなことに日本に武力侵攻を企図できるのは同盟国の米国くらいで中国も離島などなら可能だろうが、本土に大規模侵攻をかけられるようになるまでには相当な時間が必要だろう。願わくば言葉遊び程度の政策しか打てない政党に二度と政権を取らせることのないよう国民がよほどしっかりと政治に向き合っていかないといけないということだろう。
 
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