出勤してすぐに社長に話して弁護士に連絡を取ろうと思ったが、社長も予定が多く、こっちも打ち合わせだの販売店との検討会だのと予定が詰まっていてなかなか時間が取れなかった。そうしてやっと社長を捕まえたのはもう午後も遅い時間だった。
社長と北の政所様にテキエディのことを話すと二人は顔を見合わせた。どうしてこんなに下のトラブルばかりあるんだろうとそういった類の表情だった。
「彼女って非正規社員でしょう。この際だから解雇してしまったら。」
北の政所様は当然のこととは言え、極めて厳しいことを言い放った。まあ会社としては不心得なことをしたものは排除するのが当然のことだろう。
しかも非正規社員なんだからなおさらだろう。しかも一応は教育関係の会社だからその社員が不倫の果てに問題を起こしたとあっては外聞がよろしくないだろう。
「確かに今回のことは解雇の理由になるかもしれませんし、そうされても文句は言えないでしょうけど、今放り出したらあの子は本当に困ったことになるかもしれません。もしもこのまま放置してその結果事件になってしまったら会社にも大きな影響があるでしょう。
放り出すにしてもそうした危険の芽だけは摘んでおいた方が良いのではないですか。それが危機管理じゃないでしょうか。彼女のためとかいうことではなくて。」
それまで黙って北の政所様と僕のいうことを聞いていた社長が口を開いた。
「どんなブログなのかな、写真がアップロードされているブログって。」
僕はその時社長の表情に男の好奇心を見て取った。大体、男なんてそんなものなんだ。危ない、危なくないなんてことよりもどんなものなのか見てみたいというのが男の本能だろう。
「じゃあ、今出して見せますから。」
僕は社長の卓上のインターネットパソコンで例のブログを表示して見せた。
「あ、これはひどいなあ。これはいけない。よくこんなひどいことをするなあ。」
社長は口ではそう言いながら結構好奇心を持って画像を眺めているようだった。
「何でこんな写真を撮らせるのよ、あの子は。理解できないわ、私には。」
「室長はないんですか、そういうこと。」
北の政所様はキッとした顔で僕をにらみつけた。
「あなたはあるの、こんなことをさせたことが。」
「私はありません。大体男は受け付けませんから。」
言い終わって僕はにやりと笑ってやった。実際のところ元祖佐山芳江が何をやっていたか僕には知る由もない。もしかしたら馬の骨氏にせがまれて似たようなことをしていたかもしれない。
でも、それをとやかく言ってみても詮無いことだし、僕自身は自ら危険因子を作ることなどあり得べからざることだった。
「男嫌いって言ってもそれは最近のことでしょう。それ以前は決して男嫌いというわけでもなかったと思うけど。」
最近はあまりムキになることがなくなった北の政所様だったが、今回はややムキになっているようだった。どうしたんだろう。もしかしたらテキエディみたいに撮らせたことがあるんだろうか。
それにしても元祖佐山芳恵のころのことを聞かれても僕にはさっぱり分からない。まあ元祖の話を聞いた限りではやっていてもおかしくはないけれど。
「最近物覚えが悪くて昔のことはよく覚えていないんです。そんなに無茶なことはしていないとは思うんですけど。一度脳ドックでも行ってみようかと思っているんですけど。でも女って好きな相手にせがまれると弱いですからねえ、もしかしたらやったことがあるかもしれませんね。記憶にはありませんけど。」
「自分のことなのにどうしてそんなに他人事のように話すのよ、そんなことしたことがないって言ったじゃないの。」
だって元祖佐山芳恵のことは間違いなく他人事なんだから他人事のように話す以外にはないだろう。
「記憶にある限り両足の親指を大きく引き離す様な姿で被写体になったことはないということです。記憶にないことまでは何とも言えません。
でも、これって私たちの問題じゃないですよね。ここで私たちが足の親指引き離しポーズの写真を撮らせたことがあるかなんて議論しても何の意味もありませんよね。」
北の政所様は明らかに苛立った様子で社長を振り返った。ところが社長はテキエディの親指引き離しポーズに見入っていたからそれがまた北の政所様の怒りを買ったようだった。
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