「ツケを払わせるって、あなた、そんなにあこぎなことをしたの。相手の人に。金でも引っ張ったんじゃないの。」
「私、そんな悪いことはしてないわ。それはお付き合いの中で食事代とか払ってもらったり、プレゼントをもらったりはしたけど、そんなに高いものじゃないし。」
「自分の生活を壊されたってことなんじゃないの。自分は生活を壊してまで何とかしようと思ったのにあなたは何もしないって。そう言いたいんじゃないの。まあ、逆恨みっていえばそうだけど、向こうはそれだけ真剣だったんでしょう。それなのにお前は何だってことでしょう。」
女土方が口を挟んだ。まあ、実際にそういうことなんだろう。
「そんな、そんなこと言われたって、・・・。私はただ大人のお付き合いをしていただけ。あの人には何もしていないわ。私だっていろいろ辛かったことはたくさんあるわ。我慢もしたのよ。お互い様じゃない、違うの。」
「大人のお付き合いもいろいろあるのよ。男も女もね。」
昔は去るのは男、すがるのは女と相場が決まっていたが、最近はこのパターンも変化しているようだ。逆にすがるのが男、去るのが女で行き着く先は事件というパターンが一般的なようだ。
もしも僕だったらテキエディのような女は都合がいいのだが、まあ、ここだけの話、テキエディのような芯のない女は好みとは言えないが。男も男でやるだけやったんだからそれで引いてしまえばいいのだろうが、男が幼いのか、純になったのか、その辺はよく分からない。
「ここにいれば安全よ。ここにはちょっとやそっとでは侵入できないわ。要塞みたいなんだから。あとは一人で出歩かないことね。当分の間は一人歩きはだめよ、分かった。」
「ええー、じゃあデートもできないの。そんなあ・・・。私だっていろいろと予定があるのに。」
「どこかで鉢合わせでもしていきなり刺されたりしてもいいのならお出かけでも何でもしたら。でなければ誰かに付き添ってもらうとか。でも、あんた、今も誰かと付き合っているの、懲りない女ねえ。」
テキエディは顔をそむけて何事かぶつぶつ言っていたが、そのうちに黙り込んだ。やはり刺されたら困ると思っているのだろうし、ツケ馬付では何もできないだろう。
もっともついてやると言ったら僕か女土方しかいないだろうが、僕はそんな役目は御免こうむる。女土方も同じだろう。
「心配ないわ、どうしてもっていうなら私が一緒に行ってあげるから。大丈夫よ。」
いきなりクレヨンが余計なことを言い始めた。このバカは自分自身が歩くトラブルだという自覚がないようだ。今のテキエディにクレヨンをつけて世の中に出すなんて爆薬に松明を縛り付けて運んでいるようなものだ。
「あんたは自分自身が不発弾みたいなものなんだから除外よ。いいわね。当分は単独外出は禁止、命が惜しかったら言うことを聞くのよ。分かったわね。」
僕は何となく暗黙の了解で納得してしまいそうなこの二人をけん制しておいた。
「とにかくあの弁護士に相談してみましょう。何か知恵を貸してくれると思うわ。もうこうなったら自存自衛のために徹底抗戦しかないと思うけど。」
「ジソンジエイって、どういうこと。」
クレヨンがまたおバカなことを言い始めた。
「自分が生き残るために戦うってことよ。もういいから黙っていなさい。」
そんな僕たちに女土方はくすくすと笑っていた。
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