「今の状況で相手と会っても無駄だと思うし、場合によってはもっとややこしくなる可能性もあるから会うのはやめた方がいいと思う。相手の人は憎さ百倍で冷静な判断はできない状態だと思うわ。」
僕も今更会って話をしてみても無駄だと思っていた。大体、男と女なてものはくっついたり離れたりというのはどんな状況であれ裏腹なのだから女が別れようと言ったら抱いた回数でも数えて、『まあ、仕方がないな』と自分を納得させつつ、女にはちょっと潮らしい態度でも見せて、『残念だ』くらい言って女の自尊心を満足させておけば問題も起こらないのだろうが、恋愛に免疫のない真面目一本の中年男性ではやむを得ないのかもしれない。もっとも相当に修羅場をくぐって来ないとこんな心境には至らないかもしれないが。
「これは法的に正攻法で対応しながら相手がクールダウンするのを待つしかないわね。弁護士に相談してみるのが一番いいのかもしれないわね、こんなことは。あなたはしばらくここで生活しなさい。いきなり押しかけられて難しい場面にならないように。いいわね。アパートも引き払った方がいいかもね。一人歩きも当分は禁止よ。ここは要塞のような家だからここにいる限り安全は保障されるわ。でも甘えてはいけないから生活費はきちんと入れるのよ」
その時、突然テキエディの携帯が鳴った。その音でテキエディの顔が強張った。
「相手の男なの、その電話。」
テキエディは慌てたように何度か首を縦に振った。テキエディの言葉で誰もが息をのんだ。携帯は電子的な音を響かせ続けた。
「電話、貸しなさい。」
僕はテキエディから電話を受け取ると通話ボタンを押した。
「もしもし、・・。」
僕が電話に出るといきなり電話は切れた。
「切れたわ。」
僕は電話をテキエディに戻した。すると今度はまた違う電子音が響き出した。はっとしたようにテキエディが電話を取り落した。どうもメールのようだった。
「メールじゃないの。」
僕がそういうとテキエディがかくかくという感じでうなずいた。
「何て言って来たの。どうせ、『どこにいるんだ、探してやる』とかなんとか言いたいんでしょうけど。」
テキエディは黙って携帯を拾うとメールを表示させてまた僕に手渡した。画面を見ると、『今のは誰だ。どこに行こうと探してやる。きっとツケを払わせてやる。』と書かれていた。
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