中国海軍が東シナ海で動き始めた。8、9両日、計11隻の海軍艦艇が次々に沖縄本島と宮古島の間を通過していった問題だ。

艦艇は3グループに分かれて航行した。第1グループは潜水艦救難艦や補給艦など3隻。第2グループはミサイル駆逐艦やフリゲート艦など5隻。第3グループはフリゲート艦3隻。いずれも沖縄本島南端と宮古島の中間地点の公海上を南東に抜け、太平洋に向かった。潜水艦救難艦が含まれているため、潜水艦も周辺で息をひそめているのだろう。

日本政府が艦艇の動向を公表すると、間髪入れず中国国防省は6月中下旬に西太平洋で演習を行う予定であると明らかにした。「年度計画内の演習」と強調し、遠洋訓練の常態化をアピールすることも忘れなかった。

《プレゼンスを誇示》
一方、長期的にみると中国側の別の狙いも浮かび上がる。ある日本政府高官は指摘する。

(1)台湾海峡有事や尖閣諸島(沖縄県)・先島諸島侵攻での米軍の介入阻止に向け、太平洋でのプレゼンスを誇示する。
(2)プレゼンス誇示の究極的目標ともいえる空母完成を見据え、米軍を待ち受ける際に空母のエスコート役となる艦艇に海域を習熟させておく-。

沖縄近海に中国軍の空母の「影」が、ひたひたと忍び寄っているわけだ。

艦艇の太平洋展開と歩調を合わせるように中国系香港紙「商報」は7日、中国軍の陳炳徳総参謀長が「空母を建造中」と述べたと報じた。軍の最高幹部クラスが空母建造を対外的に認めるのは初めてだという。艦艇の行動と高官の発言は周到に計画され、すべて一本の糸で結ばれているかのようだ。

これに対し日本側の対応はどうだったか。むろん自衛隊のオペレーションにぬかりはない。海上自衛隊の護衛艦とP3C哨戒機がマークし、警戒監視を続けている。P3Cは中国海軍の艦艇を写真におさめ、護衛艦から撮影した動画もある。

 《日本政府は右往左往》
問題はそこから先だ。艦艇の動向を国民に公表するという単純極まりないオペレーションで、政府は右往左往した。防衛省は第2グループの艦艇が沖縄近海を通過した1時間後の8日午後1時ごろ、事実関係を公表する手はずを整えていた。だが、報道各社にペーパーが配られたのは午後5時ごろになってからだ。

 防衛省→外務省→首相官邸。ペーパーはそのルートをたどり、4時間かけて回覧され、民主党政権の検閲を受けていた。動画の公表にいたっては、それから丸1日たった9日午後5時半だった。政治主導により、中国を刺激しないよう賢明な判断を働かせていたのだろう。

現段階ではどこで時間を浪費したのか定かでない。ただ、昨年9月の中国漁船衝突事件で中国側に翻弄(ほんろう)され、胡錦濤国家主席を前におどおどとメモを読んだ菅直人首相と彼の意をくむ官邸スタッフは、判断をためらった疑いがある。

《外務省の“前科”》
外務省も疑ってかかるべきだ。中国への過剰配慮の“前科”があるからだ。平成20年7月、中国は東シナ海のガス田「樫(中国名・天外天)」で新たに掘削を行っていたことが判明した。日中両政府は同年6月、ガス田問題の協議で樫については共同開発の合意に至らず、継続協議の対象にした矢先だった。現状維持すべきところを掘削したことは、中国側の明確な合意違反で、その不当な行為を確認したのは海自のP3Cだった。

当時、中国側は樫をはじめガス田周辺でのP3Cの飛行をやめるよう日本側に激しく抗議してきていた。「なぜ軍の航空機を飛ばし敵対的な行動をとるのか」という論理を振りかざした。P3Cの飛行は正当な警戒監視活動であり、中国側の言い分に理はない。このため、防衛省も資源エネルギー庁も監視の強化を検討していた。

しかし、外務省だけは違った。「P3Cの飛行を控えるべきだ」。外務省は防衛省にそう迫ってきたというのだ。「こともあろうに中国の意をくむとは…」。当時の防衛省幹部は絶句したものだ。中国が東日本大震災発生に配慮し抑制気味だった日本への「示威行動」を活発化させたことは明白だ。対峙(たいじ)する日本は民主党政権のもと、中国に対し過剰に配慮する姿勢が強まった。まかり間違っても、中国軍ににらみを利かせる自衛隊の運用に暗い影を落とさないことを願うばかりだ。

中国艦隊の南西諸島通過は日本に対する示威行動だったのか。でも、そんなに慌てる必要はない。主力は1980年代に旧ソ連で建造されたソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦、当時は重武装水上戦闘艦艇として勇名を馳せたが、今では時代遅れの艦船だ。もちろん改装はしているだろうが、時代遅れの艦船であることは間違いない。
 
空母にしても随分前から、「空母を建造する」と言いながら、出来上がりつつあるのは、ロシアが途中で建造を放棄したワリヤーグという空母だが、テーマパークにするなどと言いながら一生懸命改修しているが、未だに完成を見ない。空母と言うのは平らな甲板があればいいというものではなく、いろいろと構造的に難しいようだ。特に航空機を発進させるために必要なカタパルトはその最たるもので、今のところ、蒸気カタパルトを実用化しているのは米国だけで英仏もその技術提供を受けている。
 
このカタパルトがないと重くなった今の航空機を空母で運用することが出来ない。英国では電磁カタパルトの開発をしているようだが、難航しているという。これはリニアモーターカーと同じものなので我が国の方がうまく作るかもしれない。着艦の管制にもいろいろとノウハウがあるようだし、空母を作るのも難しいが作ったからと言ってすぐに戦力として機能を発揮するものでもないようだ。
 
後はカタパルトの要らないSTOVL機、つまり短距離離陸・垂直着陸戦闘機だが、これもF-35Bの開発が不透明になっている今、この世に存在するSTOVL機は、AV-8Bのみになってしまった。一時期はこの手の航空機を運用する英国のインビンシブルに代表される軽空母を保有するのが流行ったが、これらも揚陸・輸送などの機能を併せ持った多目的艦へと移行しているようだ。
 
日本の海上自衛隊は、最新の護衛艦を取り揃え、1980年代に建造された艦と言えば、DDH「しらね」・「くらま」にDDG「はたかぜ」「しまかぜ」と「ゆき」型くらいで、それも順次後継艦の建造が進んでいる。特に空母型と言えば、2万トンの「ひゅうが」「いせ」に加えて3万トンに近い22DDHも間もなく建造が始まる。「くらま」の代替艦の24DDHも遠からず予算が認められるだろう。海上自衛隊はこれらの空母型護衛艦を「駆逐艦」と言い張り、食うbとしての機能は持っていないというが、それは表向きで簡単な改装でF-35Bなどを運用する軽空母に早変わりできることは間違いない。ハードについてはいたずらに中国を恐れるような問題は見当たらない。
 
組織としての自衛隊の統制・運用能力も極めて高い。今回の震災では実質23万の軍隊が10万人を前線に展開させて災害救助や復旧に当たった。無能・無策な政府に代わってほとんど自衛隊だけが災害復旧を支えたと言っても過言ではない。通常の業務もある中でこれだけの人員を前線に展開させるという運用を担当した人たちの苦労は並大抵ではなかっただろう。これは日本人特有の生真面目さや自己犠牲などもあるだろうが、これだけの大仕事を粛々とやってのける組織力と言うのは特筆に値するだろう。だから組織としても今の自衛隊は十分に信頼に値するものだろう。
 
だからと言って、別に中国と戦おうとか、同等の軍事力を持とうというわけでもない。予算の組み替えをすれば、中国並みの軍事力を持てないわけでもないだろうが、それでは国内が持たないだろうし、財政上の問題もある。日本には中国とは違った国としての行き方があるだろうし、むきになって目くじら立てる必要もない。しかし、一番困るのは腰が引けて次々と相手の言いなりになることで、その辺りは日本が最も不得手とする部分で、中国にしてみればそこが付け目だろう。
 
南シナ海に加えて、東シナ海から西太平洋の覇権を手にしようとしている中国にとっては、大きな国力と技術を持った日本は何とも目障りな存在だろう。圧倒的な武力を誇示して横車を押しまくれば、争い事が嫌いで対応の不得手な日本は腰が砕けてひれ伏すだろうというのが目論見だろう。その第一弾として、遠からず尖閣諸島辺りで武力衝突が起こるかもしれない。その時にどうするか、日本が真の独立主権国家としての毅然とした対応が示せるかどうか、それが一番の問題だろう。
 
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