「ねえ、ちょっとクレヨンを呼んでいい。」
女土方がちょっとけげんな表情を見せた。ここでクレヨンを呼んでもあのサル並みの知恵では役に立たないと思ったのだろう。
 
「あんたは一人暮らしでしょう。取り敢えずは身の安全を確保しないとね。あの家なら警察よりも安全でしょう。」
 
僕がそう言うと女土方も納得したように肯いた。この先のことは打つ手はいろいろとあるだろうが、僕は民事訴訟による画像の削除と慰謝料の請求、そしてそれが聞き入れられない場合は刑事告訴という方法を考えたが、弁護士とよく相談してから決めようと二人に言っておいた。
 
テキエディの一時避難についてはクレヨンも一も二もなく受け入れて金融王に電話をすると同居人が一人増えると伝えた。金融王もクレヨンが言うことにはほとんど無条件で受け入れるようで何の問題もなかった。もっともあの家で同居人が一人二人増えるくらいは何でもないことだろうが。
 
その晩は金融王の家でクレヨンの部屋にテキエディを押し込んだ。こいつ等は、お互いに何だかんだと言いながらレベルが同じなのか、結構気が合うようだ。このところ沈み込んでいたテキエディの表情にやっと笑顔が戻って来た。
 
しかし、テキエディの笑顔を取り戻すのが目的ではない。問題を解決するのが目的だ。それには何があったのか、どんなことが起こったのか、状況を把握しないといけない。
 
「ねえ、これからいろいろとあなたのことを聞かないといけないの。でもね、脚色しないで正直に話してね。言い難いこともあると思うけど。」
 
テキエディはまた暗い顔に戻ってしまったが、これもやむを得ないだろう。まあ、そうしてあれこれと聞いてみたところ、相手というのは我々と同業の編集者のようだった。
 
テキエディはいわゆる非常勤派遣社員だから特に他の会社の仕事をしても問題はなかったし、それなりに手広くやっているのは知っていた。そしてそんな手広い人間関係を利用してその中で適当な相手を見繕っては恋愛を繰り返しているのも知っていた。
 
それはそれで生き方なんだろうし、恋多き人生をとやかく言うつもりもなかったし、僕自身も人様に誇れるような生き方をしてきたつもりもなかった。ただ、こんな問題を背負い込まないと良いとは思っていたが。
 
ずっと以前にクレヨンに聞いたことがあったが、そしてそれが女土方と大問題を起こすきっかけとなったことだが、それは、『女はどういう時に男に抱かれたいと思うのか、それを決心するのか』ということだった。
 
体は女でも僕のソフトは男だから八つ裂きにされようとも男に抱かれたいなんて欠片も思わないが、女にはそれなりに思うところがあるんだろう。
 
でも、テキエディは時々クレヨンと、『昨日さあ、ちょっとやり過ぎちゃってさあ、そんなつもりはなかったんだけど、まあいいか』なんて会話をしていたので案外お手軽なことなのかもしれないが。
 
それでその編集者からそれなりに仕事を回してもらったりしているうちに食事に付き合い、酒に付き合い、そしてまあそういう関係になったらしい。
 
テキエディは相手が所帯持ちとは知っていたようだが、相手があまり親身になってくれてそのうち情が移ったようだった。それでも相手が所帯持ちということで添い遂げるなどということは考えていなかったようでどこかで区切りをつけないといけないとは思っていたようだった。
 
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