何となくあわただしい一日が終わって仕事を片付け始めるとお気楽クレヨンがどこかに遊びに行きたいなどとろくでもないことを言い始めた。
そういう時は必ず話に割って入るテキストエディターのお姉さんはどうしたわけか黙って下を向いたままこっちを見ようともしなかった。そして小さな声で「お先」と言うと逃げるように職場を出て行った。
彼女が話に入ってくれることを期待していたクレヨンは呆気にとられたように黙って小走りに走って行くテキストエディターのお姉さんの後姿を見送っていた。
「あの子、どうしたの。何だかずいぶん落ち込んでいるみたいね。」
僕が独り言のようにそう言うと女土方が黙ってうなずいた。
「また彼に振られちゃったのかな」
クレヨンが気楽な調子でそう言ったが、これまでの失恋とはちょっと様子が異なっていたのがちょっと引っかかった。
でも他人の私生活に首を突っ込むのは僕の意とするところではないのでそれ以上の詮索は控えることにして帰宅の途に就いた。クレヨンは寄り道できないことが残念だったようだが、女土方に促されて諦めたようだった。
自宅に帰るとまた豪華なダイニングで豪華な食器に盛り付けられたカキフライ定食を食べてその日を終えた。多分かなりの値段のカキなんだろう。味はなかなかよかったが。
翌日、僕の方の話題はもうかなり静まってきていたが、テキストエディターのお姉さんの沈み方はさらにひどくなっていた。ため息をついたり、はたまた目に涙を浮かべたり、もうそれは尋常ではなく仕事などそっちのけで沈没していた。こうなると放っておくわけにもいかず昼休みに女土方と話して帰りにでも連れ出して事情を聴いてみることにした。
テキストエディターのお姉さんは午後も仕事などそっちのけで天を仰いでいた。こうなると何とも言いようもなくなってくるが、女土方は目くばせするし、仕方がないので彼女がトイレに席を立ったのを追いかけて行ってトイレで捕まえた。
「ちょっとあなた、どうしたのよ。こまったことがあるのなら話して。できることはしてあげるから。一人で悩んでいても解決できないこともあるでしょう。」
僕がそう言うとテキストエディターのお姉さんは僕をじっと見つめた。そして次の瞬間、その両の目から堰を切られて流れ出した水のようにどっという風情で涙が流れ出した。彼女はそのまま個室に走り込むと声を上げて泣き出した。
これには僕もちょっと参ってしまった。何だか僕が彼女をいじめているみたいじゃないか。女はこの手を良く使う。以前女土方も宴会の席でこの手を使ったことがある。
その時僕は女だったから追いかけようと思えば、それも出来たが、男にとってこの戦法を使われると手も足も出ずに白旗を上げざるを得なくなるのだ。
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