まず洗面所で経口薬を呑むと今度はトイレで座薬を入れた。洋式便器をまたぐと丁度いい格好になるのでそのままさっさと押し込んだ。それにしてもこの感覚はどうも好きになれない。
ベッドに戻ると今度は本気で寝るつもりで体を伸ばして仰向けに横になった。鎮痛剤のせいなのか痛みは少し治まったようだった。
「おやすみ」
僕は二人に声をかけると目を閉じた。
翌朝は普通に目を覚まして出勤する支度を始めた。社長は休めと言ったし、女土方も無理をしないように言うけどこんな怪我で休んでいては株主様にも社員の皆様にも申し訳がない。痛くないと言ったらうそになるが、動けないというほどではないので何時も通りに電車で出勤した。
会社に入ると女子社員が僕を拍手で出迎えた。『佐山主任、格好いい』とか『戦う主任素敵、万歳』などと叫ぶ者もいる。景気がいいんだかバカにされているんだかよく分からない。
男子社員も拍手や喝采こそしないものの好奇とある種の畏敬の目で僕を見ていた。女に好かれるのもややこしいことになりそうだが、男に絡まれるのは僕にとって死活問題なのでさっさと部屋に入った。そうしたらすぐに社長からお呼びがかかった。
社長室に入るとそこには社長と北の政所様が待っていた。
「やっぱり出勤したか。」
社長が諦め顔でそう言った。
「話を聞いて驚いたわ。あまり無茶はしないでね、あなたを必要としている人がたくさんいるんだから。でも話を聞いていて私って恐ろしい人と戦ったんだなって思ったわ。」
北の政所様はいたずらっぽく片眼を瞑って見せた。社員旅行で沖縄に行った時に尻をひん剥いて叩き飛ばしてやったことを言っているんだろう。別に僕も男のころから喧嘩ばかりしていたわけではないが、格闘戦に関しては女よりも長けているだろう。
「警察や検察からまた呼び出しがあるだろうと弁護士から連絡が入っている。その時は優先で対応してやって欲しいと。公務ということで構わないのでそっちを優先で対応してくれ。それと医者にもきちんと通うように。傷跡が残らないと良いんだけど。」
社長は随分いろいろと気にかけてくれているようだった。
「足の方は傷が残るだろうと医者に言われていますけど、もう返品商品のようなものですから。それにむき出しでいるわけでもないので少しくらい傷が残っても大丈夫です。」
女の場合ふくらはぎはほとんど露出しているのが通常なのだが、僕は大方ズボンを穿いているので少しばかりの傷跡はあまり関係ないだろう。たまにやむを得ずにスカートを穿かなくてはいけないことがあるがその時は濃いめのストッキングでも使えばいいだろう。
「もしも傷跡が残るようなことがあれば会社で負担するので整形でもすればいいんじゃないか。」
社長はあくまで傷に拘るようだが僕にしてみれば着られるのは一度で沢山だ。もう一度同じところを切られるくらいなら傷が残っていても構わない。
「いえ、大丈夫です。どうもあまり他人に体をいじられるのは好きではないので。たとえそれが医者でも。だからご心配には及びません。気にしていませんから。」
今度何かあった時にはむき出しの足を机に乗せて傷をひけらかせて啖呵でも切ってやろうか。それも一興かもしれない。
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