「この女はどうしてこうもデリカシーがないのか知らねえ。よくもその勢いで食事なんかできるわね。あんなことがあった後で。」
クレヨンがつくづくと呆れたように言ったが、食事をして栄養をとらないと傷が回復しないではないか。
 
「じゃあ、私も。でもご飯はいらないわ。」
女土方がそういうとテーブルに着いた。女土方の前に飯抜きのとんかつ定食が運ばれてきた。
 
考えてみればこんな時間に食事の用意など申し訳ないのだが、ここのお手伝いさんはプロ意識に徹しているというのか、食べた後を片付けるという僕たちの申し出を一蹴して、「お済みになったらお休みください。」と言って自分の部屋に戻ってしまった。
 
食事を終えると僕たちは部屋に戻った。どうもその頃から例の本能がかなり強くなってきていて落ち着かなくなっていた。今日は緊張したり興奮したりしたからだろうか、神経が興奮状態なのかもしれない。しかし、クレヨンがいるのでその湧き上がってくる本能をむき出しにするわけにもいかなかった。
 
「疲れたわ、そろそろ休みたい。」
僕はそう言うとベッドに行って転がった。クレヨンは女土方を振り返った。女土方がクレヨンに黙ってうなずくとクレヨンは、「いろいろと聞きたいんだけど今日は遠慮するわ。ゆっくり休んでね。」と言って部屋を出て行った。これでやっと女土方と二人きりになれた。
 
「ねえ、ちょっとこっちに来て。」
僕は体の奥から突き上げてくる欲求にもうほとんど耐えられなくなってきていたので女土方を呼んだ。そしてベッドのふちに腰を下ろした女土方を思い切り抱き寄せた。
 
そう、何でこんな時にと思うが、僕は湧き上がってくる自分の性欲を抑えきれなくなっていた。大昔、性欲を運動や文化活動などに昇華させると良いなどと書かれている御大層な書物があったが、本来別物なのだからせっせと運動したり読書などしてもそんなものが昇華するわけもない。
 
むきになって運動などすると却って性欲が強くなる時がある。まあ、男なんて生き物は即物的なろくでもない生き物なのだろう。
 
いきなり抱き寄せられた女土方は激しく抵抗してしばらくもみ合いになったが、力は僕の方が強い。傷が押されて痛みが走ることもあるが、男ならその痛みで興奮はぐにゃりとへし折れるかもしれないが、女にはへし折れるものがないのは好都合だった。
 
でも女土方はどうも受け入れる気がないようで抵抗を止めようとしなかった。こうなりゃ力づくでもと思ったが、それもあまりにも強引だし、ばたばたしてクレヨンにでも踏み込まれてもばつが悪いので、「ねえ、どうしても我慢できないの。今、あなたが欲しいの。お願い、受けて。」と女土方に囁いた。
 
その一言で女土方は力を抜いて身を任せて僕を受け入れてくれた。ああ、受け入れてくれたという表現はこの場合、やや語弊があるかもしれない。相手をしてくれたというべきだろうか。
 
しかし、こうした感情というのは男そのもので女土方には大いに違和感を感じるところなのだろう。それでもかなり真剣に受け止めて相手をしてくれたことは女土方にもそれなりの気持ちがあったのかもしれない。
 
そうして一通りやることをやってしまうとやっと気持ちが落ち着いてきた。僕は女土方を抱き寄せると、「心配かけて本当にごめんなさい」と謝った。女土方は僕の胸で大きくため息をついた。
 
「あなたって本当に私には理解ができないところがある人ね。今日のことも今のことも一体この人どうしてって思うことばかり。でもね、社長も言っていたけどあなたはあなただけのものじゃない。あなたを必要としている人がたくさんいるの。そのことの重さは分かっていてね。」
 
  僕はそう言われて何だか照れ臭かったが、少なくともこの腕の中にいる女と壁を隔てて隣の部屋にいるサルはそうなんだろう。もしかしたら社長や北の政所様もそうなのかもしれない。
 
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