それから僕は中に呼ばれていわゆる事情聴取というのを受けた。まず身上から始まって事のなれ初めから順に聞かれるのだが、話をしてもそれがうまく文章にならないようでまどろっこしいと言ったらありゃしない。
 
足も痛いし面倒だし、ちょうど弁護士がいたので自分で書いてはいけないのかと聞いたら自分で書いたものは上申書と言って警察官が書いた調書よりも証拠価値が高いというじゃないか。
 
「じゃあ、自分で書きます。要するに今回のことのなれ初めから何が起こったのかそれを書いて提出すればいいのね。」
 
僕がそう聞くと警察官は何だか嫌な顔をしながら肯いたのでパソコンを借りて上申書とやらを打ち始めた。要は社内で盗撮事件があっていろいろ調べてもらっていたらあの男に行きついた。
 
でも証拠がないのでどうにもならなくて歯ぎしりする思いでいたところ、たまたまあの男を見かけて後をつけて行った。自宅まで来たところどうしても事の決着をつけたくなって声をかけてしまった。
 
そして招かれるままに部屋の中に入ってあの男に事実を確認したら、その後はもうここで話した通りだ。奴がちょっと油断していて、性格もぬけていたので僕は殺されたり弄ばれたりしないで済んだということだろう。
 
何だかんだでこれまであったことを一時間ほどで書き上げて印刷して弁護士に見てもらい合格をもらって上申書とやらは出来上がった。それに署名して警察官に渡してその日はお役御免となった。
 
奴は傷害と脅迫で逮捕されたとこのと、まあそれはそれで当然のことだし結構だと思う。警察署を出るときに警察官に「この次からはもう少し穏やかに行動してください。我々を信頼してもらって出来ればあまり派手なことは慎んでください。」と念を押されてしまった。
 
警察署を出たところで弁護士に礼を言って別れ、社長の車で送ってもらった。社長は黙って運転していたが、そのうちに意を決したように口を開いた。
 
「佐山さん、あなたは会社にとってもかけがえのない大事な社員だし、個人的にもあなたを必要としている人がたくさんいる。あなたはあなただけの佐山芳恵じゃない。そのことを忘れないでほしい。悔しい気持ちは分かるが、あなたはあんな男と刺し違えるような人じゃない。だからもう少し自重してもらいたい。」
 
「はい、ご心配とご迷惑をおかけして本当にすみませんでした。これからはもう少し慎重に行動します。」
 
「しかし、刃物を向けられても慌てずに対応して相手をノックアウトしてしまうあなたには恐れ入った。男でも冷静に対応するのは難しいだろうに、あなたにはどうしてそんなことができるんだろう。本当に一体あなたって何者だろうと不思議で仕方がないよ。」
 
日本ブログ村へ(↓)