「私だってバカじゃないわ。ここに来る前にきちんと連絡はしてあるわ。連絡がなければ私の携帯の位置検索をして警察に通報してって。私の携帯にはGPS機能がついているのよ。あなたの負けね、もう本当のことを話して謝罪しなさい。」
奴もGPS機能には焦ったようだった。早くけりを着けようと思ったのか、これまでよりも大きく強く突いてきた。僕は待ってましたとばかり、一歩下がって椅子で腕を思い切り叩いてやった。
骨に当ったのか「あっ」と声を上げると奴はナイフを取り落とした。慌ててナイフを拾おうとかがんだところに椅子で頭を叩いてやった。この程度でけりがつくとは思わなかったが、奴はナイフをつかんだままもう一方の手で頭を抱えた。そこをもう一発叩いてやった。
「この女、手加減してやればいい気になりやがって。ずたずたにしてやる。」
叩かれて相当頭に来たのかナイフを振り上げて立ち上がろうとした。中腰になったところで前ががら空きだったので一歩踏み出して椅子で胸の辺りを思い切り突いてやった。
奴は派手に後にひっくり返って頭をサッシの枠にぶつけた。でも僕の左腕にもピリッとした感覚が走った。ナイフが当ったのだろう、腕から血が流れ出していた。でもそんなに深い傷ではないようで腕の力も抜けていないのであまり気にはしなかった。
後にひっくり返って頭を打った奴は「うー」とか言いながら起き上がろうとしていた。この際フィニッシュするには椅子を横に振って側頭部あるいは顔を狙うのがいいのだろうが、それでは大怪我をさせる恐れがあるのでさすがに躊躇った。
「ぶっ殺してやる」
奴はゆっくりと起き上がろうとした。僕はとっさに右手に持った椅子を床につけてそれを支点にして奴の胸を目がけて蹴りを入れた。ここ数年何万回という回数をこなして鍛えに鍛えたビリー隊長直伝のコンバットキックだった。こんなことのためにやっていたのではなかったのだが、芸は身を助けると言うのはこういうことを言うのだろうか。
蹴りは奴の首の付け根辺りに炸裂した。女とは言っても脚力というのは腕力と較べれば雲泥の差があるものだ。どんな足弱でも百メートルを何十秒かで走り切るだろうが、どんなに鍛えた者でも百メートルを逆立ちで走り切るのは難しいだろう。
奴はまた派手に後にひっくり返った。そしてサッシの枠に体をぶつけたが、その時「ごつん」という鈍い大きな音がした。同時に僕の足には先とは比較にならないほど強い衝撃が走った。蹴られた時に振り回したナイフが当ったのだろう。
それでもまずやらなければいけないのは奴が取り落としたナイフを始末して奴を動けなくすることだった。僕はナイフを拾い上げると玄関の方へ投げ、正体なくのびている奴の手を棚に置いてあったガムテープでぐるぐると巻いてその上から荷造り用のビニールひもで重ねて縛り上げた。その後足も同様に縛り上げて奴の動きを封じると、痛みが走った自分の足を見てみた。
左のふくらはぎの半ばから下が血で赤く染まっていた。カーゴパンツをまくってみるとふくらはぎの内側が切り裂かれてけっこうな勢いで血が流れ出していた。止血をしないといけないと思ったが、適当なものがないので自分のハンドタオルを傷口に当ててパンツの上からガムテープでぐるぐると巻いておいた。
腕の傷はかすった程度で出血もそれほどでもなかったのでこれもハンドタオルを当ててガムテープで巻いてやった。その間、奴は気を失ったままだったので自分の処理が終わってからキッチンに行ってグラスに水を汲んできて奴の顔にかけてやった。
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