「工事はいろいろな人が出入りしてやっているし、僕ばかりが担当しているわけじゃない。推量だけで人を変態扱いするのは良くないな。」
 
「確かにそうですね。推量だけで人を疑うのはいけないことです。でもうちの会社の防犯ビデオには『工事中』の立て札を置いてあの女子トイレに入って行くあなたの映像が残っています。あの時期男性であそこに入った人はいないんです。」
これも出まかせだったが、この場合それも方便だろう。
 
「そうなんですか。あなたの会社に防犯カメラがありましたっけ。あの場所に。でも回線のチェックのためにいろいろな場所に入らなければいけなかった。それはおたくの総務にも許可をもらっている。」
 
「カメラのことは社のセキュリティの問題なので何とも言えません。」
本当はあの場所にはカメラは設置されていない。そんなものがあればこの問題は今ごろ何とかなっているんだろう。
 
「今日ここに来たのはあなたにお願いがあったからです。私は本当にあなたがやったのかどうかよりも事実を知りたいだけです。あんな卑劣なことをした人に責任を取ってもらって被害を受けた人に謝罪して欲しい、それだけです。
 
実は仕掛けてあった機械を警察に提出したらそこから指紋が見つかったということです。でも、今のところその指紋で犯人が特定できてはいません。だからあなたが自分じゃないと言うなら協力して欲しいんです。
 
あなたの指紋と照合すればあなたの潔白は証明できますし、私たちも納得できます。うちの社員は全員が指紋を照合しました。部外の人も協力してくれた人がいます。あなたも協力してもらえませんか。」
 
指紋という言葉で奴の表情がぴくりと動いた。一瞬動揺したのだろう。僕は益々自信を深めた。やったのはこいつに間違いないと。
 
「指紋ですか。なるほど。協力しても良いですが、それでもしも僕じゃなかったらどうするんですか。ここまで侮辱しておいて、あなたはどんな責任を取るんですか。」
 
どうでも責任なんか取ってやる。お前がやったんだから僕が責任を取るなんてことはあり得ない。どんなことでもしてやろうじゃないか。
 
「お詫びします。あなたが納得してくれるような形で。でも私が謝ってあなたが納得してくれるかどうか分かりませんが。」
もしも違っていたらどうせこんな奴のことだから裸踊りをやって見せろとかろくでもないことを言うのだろう。
 
「そうですか。僕が納得するような形で謝罪をしてくれるんですか。それは面白そうだ。」
奴は薄笑いを浮かべて机の引き出しに手を伸ばした。そしてしばらく中を探っていたが、突然僕の方を向き直ると笑みを浮かべながら僕に向かって言い放った。
 
「やったのは僕じゃない。だから今ここであなたに謝罪してもらおう。僕の思うような形で。いいんだね。」
 
奴はそう言うと机の引き出しからゆっくりとサバイバルナイフを取り出して僕に向けて突き出した。長さが十五センチほどのごつい奴だった。
 
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