風上にも置けないとは思ってみても、これというきちんとした証明がないと、ただ怪しいでは手も足も出ずに僕の心の中には割り切れない思いが固まったままだった。何とか一矢報いてやりたいとは思ってもても怪しいという状況だけで証拠がないことにはどうにもならなかった。
弁護士にも話してみたが、「状況的にはかなり疑わしいですが、『疑わしきは被告人の利益』という法の大原則がありますからねえ。」と言われて話は終ってしまった。それでもサーバーの画像の方は何とか削除されたが、元のデータがあればいくらでもまたネット上にアップできる世の中だから始末が悪い。
これで画像が売買されてでもいたら腹立たしくて涙も出ない。もっとも僕の、いや、元祖佐山芳恵の体かな、まあ、どちらでも中年女の画像など買い手が付かないだろうが。
そうこうしているうちにあの盗撮事件も徐々に風化してきて会社の者も過去のこととして忘れかけたころ、僕はちょっと訪問するところがあったので早めに会社を出た。用事を済まして時計を見るともう勤務時間が過ぎていたので、そのまま帰宅することにして会社に電話を入れてから最寄りの駅に向かった。
駅前まで来ると本屋が目に入ったのでちょっと寄ってみることにした。女の体になってからもうずい分と時間が経ったが、好みは男の時のままなので本も女性が集うような本棚には向かわない。
時々、好奇の目で見られることもあるが、そういうことはあまり気にしないことにしている。しかし、僕の名誉のために言っておくが、アダルトものなどを物色しているわけではないので誤解のないように。
そうして本屋であちこち本を物色していると本棚の先を見覚えのある男が通り過ぎた。その姿は僕の神経を逆なでするような嫌な気配を振りまいていた。
「あいつだ。」
僕は手に取っていた本を急いで本棚に戻すと男の後を追った。奴は手に小型の手提げバッグを持ってあちこち見回しながら本棚の間を歩いていた。
その間も陳列された本に視線を落とし、あるいは手に取ったりしていたのはその行動を怪しまれないためだろう。どうせ獲物を物色していたのだろう。奴はしばらく本屋の中をうろついていたが、そのうちに外に出て行った。
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