「え、突然どう言うことなの。」
またクレヨンがすっとん狂な声を上げた。こいつが分かるように説明するには千年もかかりそうだ。

「今度のはかなり手が込んでいて撮影した画像を、無線でサーバーに飛ばして一時的に貯め込んで、それをネットの回線でどこかに送っていたって。

そうでしょう。そんな手の込んだ仕事が外からひょっこり入って来て出来るわけがないでしょう。でもネット回線の工事の時にカメラを仕掛けてサーバーをセットすれば誰にも怪しまれずに出来るじゃない。それに工事だと言えば、女子トイレにも入ることが出来るでしょう。」

「確かにそう言えばそうね。でも証拠は。工事をしていた人は他にもいるわ。あの責任者の男性だけじゃない。」

女土方が当然の疑問を投げかけた。確かに証拠は何もない。でも、工事の人はあの男の指示に従って配線工事をしていただけであちこち動き回ってはいなかった。ロッカールームだの倉庫だのと動いていたのはあの男だけだ。

「証拠は何もないわ。私の感よ。でも間違いないわ。あいつが犯人よ。」

僕の頭の中で何かがそう言っていた。あいつが犯人だと。


「何時も理論的なあなたが、今度だけはそんなに主観的なことを言うなんて。そう言われれば確かに怪しいけれど、証拠がないんじゃあどうしようもないでしょう。」

女土方は僕の直感にあくまでも否定的だった。

「でもねえ、あの人って良い人だったわよ。穏やかで、礼儀正しくて親切で。そんなことしそうもなかったけどなあ。」

「そういうのは癖だから礼儀正しかろうが、親切だろうがそう言う人間性とは無関係なのよ。好みなのよ、その人の性的な好みなの。良いとか悪いとか、それもあるけど、基本的にどうしようもないのよ。」

「ビアンと一緒なのね、そういうのって。」
女土方がちょっと自嘲的にそう言った。

「そう、広い意味ではね。でも、ビアンは犯罪でもないし誰にも迷惑はかけていないわ。それが大きな違いでしょう、あいつのやったこととは。」

「そうね。」
女土方は少し安心したように微笑んだ。

「証拠ねえ、それはどうしようもないわね。まあ、何とかするわ。あんなことをしたあの男、あいつだけは許せない。」

『男の風上にも置けない。』
僕はそう言いたかったが、最後の言葉は飲み込んでしまっておいた。


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