「そのことは僕が預かる。」
後で社長の声がした。
 
「僕は彼女達に感謝している。それは社の業務を適正かつ効果的に処理してくれることに対してであってそれ以上でもそれ以下でもない。そしてその気持ちは社員の皆さんすべてに対して同様だ。恣意的な感情は一切ない。
 
今回のことは本当に卑劣なことで被害を受けた人たちには全く気の毒に思っている。被害を受けた人たちの心の傷が早く、そして少しでも癒えるように手を尽くしたいと思う。
 
僕たち男にはそれがどれほど重い痛手なのか分からないところもあるが、是非被害を受けた人たちの傷が癒えるように心を砕いて欲しいと思っている。部長もその点を踏まえてよろしくお願いします。」
 
吹けば飛ぶような会社でも社長は社長なのでいくら何でも社長にこう言われれば部長としてもこれ以上は反発するわけにも行かず「社長のお考えは良く分かりました。ご意志に沿うよう努力します。」と言うとその場から立ち去った。
 
「佐山さん、僕はあなたのような表裏のない単刀直入な行動は評価もしているし好意も持っている。でも組織では時と場合によっては摩擦を生じることもあるのでその辺は考えて欲しい。あなたは頭のいい女性だからその辺は十分に理解はしていると思うけど。」
 
社長が言わんとしていることは全く良く分かる。年齢や性別、思考、主義主張、すべてが異なる人の集団と言うものは確かに個人と個人のぶつかり合いでいろいろな摩擦や齟齬が起こるのだから出来るだけそうしたものを生じさせないように上手く立ち回って欲しいと言うことなのだろう。
 
集団を預かる者としてそれは当然のことだし、そのことは十分に理解出来る。僕は「それは良く分かっています。私にも思うところはありますが、社長の思いに添うように自重します。」と言うと頭を下げた。社長は笑顔で僕を見た。
 
「佐山さんも言うよなあ。でも言動は慎重に。責任を取っても良いからあなたのすべてを見て見たいという人は結構多いかも知れないよ。もしかしたら僕もその一人かも。
 
おっと社の総括責任者としてこんなことを言ってはいけないな。発言は取り消させていただきます。でも変な意味じゃなくて佐山さんの人となりには大いに興味はあるんだけどね。」
 
社長はそれだけを言うと「じゃあ、」と言って部屋を出て行った。
 
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