数日後、警察に告訴状を出してきた弁護士から社長に報告があったそうだが、あの隠しカメラはCCDカメラ、画像データ保存用のメディア、それにメディアが一杯になると自動的に画像データを送信する送信機が組み合わされた盗撮デバイスとしては極めて高度なものだったそうだ。
 
ただ、発信した電波の送達範囲がかなり狭いのでビルなどの建造物の中ではほとんど外には届かないということだそうだ。
 
「外に届かないと言うことは内部でデータを受けているってこと。そうすると犯人は内部にいるってことよね。」
クレヨンはまた至極単純なことをのたまった。
 
「でもあのサイトにはずい分いろいろな場所の写真が掲示されていたでしょう。うちの社員がそんなにあちこち出かけて行けるかしら。
 
デパートとか駅なら誰でも入れるけど、人目につきやすいし、一般の会社や役所とか銀行なら中に入ってしまえば人は少ないでしょうけど、外部の人が、『こんにちは』って入って行ける場所じゃないところもたくさんあったでしょう。
 
それを考えると一概にうちの社員が犯人とも言えないわよね。営業なら可能性はあるけど、うちの入っていないところもずい分あったみたいだから。」
 
女土方はやはりそれなりに深いところを考えて見ているようだ。サル知恵とは雲泥の開きがある。確かに女土方の言うとおり、一概にうちの社員とは言い難いところもあるようだ。
 
ごく限られた範囲にしか電波が届かないと言うのなら届く範囲で電波を受けてデータを回収しないといけない。
 
そのデータ回収をどうやってやるかと言うことだが、頻繁に出入りすれば当然怪しまれるだろうし、誰かに見つかる可能性も高くなる。その問題をどうクリアするのか、何だか僕が犯人になったような気分だった。
 
「ねえ、あなたが一生懸命に見つけようとしていた指紋はどうだったの。」
 
「ああ、指紋ね。警察はいくつか見つけたようだけどそれが誰のものかは分からないみたい。」
 
女土方は少し首を傾げて考えていたが、今度はあのサイトのことを言い出した。
 
「サイトはどうなるの。あのまま残ってしまうの。」
「弁護士が米国の知人の弁護士に頼んで閉鎖の手続きをとっているようだけど、まだしばらく時間がかかると言っていたわ。」
 
「そう、今度のことがずい分と評判になってしまったので何とかサイトを探そうとしている男子も多いみたい。あなたの他に総務や経理の子はことが公になって精神的に不安定な状態になってしまって出社出来なくなって休んでいるわ。
 
出勤している子も気持ちが落ち着かなくて仕事が手につかないみたい。会社を辞めると言っている子もいるみたい。早く何とかしないと大変なことになるわ。」
 
どうも盗撮の被害を受けた中で犯人探しに血道を上げて元気なのは僕だけのようだ。僕の思考回路は、まっ更、男のそれだから写されたからと言って、良い気持ちはしないものの精神的の動揺するというほどのこともない。
 
それよりも本来人目に晒されないことを絶対条件に、あれこれ必要欠くべからざることをしているところを盗み撮りするその根性の方が腹立たしい。しかし、今のところはそんな卑劣な犯人に鉄槌を食らわせる方法は何一つ見当たらなかった。
 
昼時になって僕たちは昼食を取ろうと部屋を出た。たまたま廊下で溜まっていた営業の男子社員の脇を通り過ぎる時に、そこにいた一人が僕を振り返った。そして他の仲間に小さな声で言ったのが耳に入った。
 
「おや、鉄の女のお出ましだ。何があっても元気なものだ・・・若くはないけど・・・どんなものか、興味が、・・・ちょっとお目にかかって、・・・。」
 
言った当の本人は聞こえないと思ったのだろうが、何故だか途切れ途切れではあったが、その言葉が僕の耳に入った。
 
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