『使用禁止』と書かれた紙が入り口に貼り付けてある女子トイレの前に立った。そしてドアを開けると中に入った。4ヶ所ある個室の奥から2番目に入ると内開きのドアを閉めた。
「あった。」
そこには芳香剤の入れ物を装った花柄の陶器のビンが置かれていた。腰を落として観察すると陶器の上部には小さな穴が開いていた。やっぱりそうだ。間違いない。この中にカメラが仕掛けてあるのだろう。
「手の込んだことをしやがって。」
その陶器のビンを見ているとだんだん腹が立ってきた。
こんなことをする奴は何とかして捕まえて思い知らせてやらないといけない。そんなことを思いながら個室から出て来ると人が集まり始めていた。
中でも、クレヨンは先頭に立ってトイレに入って来て、「どうしたの、何があったの。」と騒ぎ立てていた。そして個室の中に入ろうとしたので襟首をつかんで引き止めた。
中でも、クレヨンは先頭に立ってトイレに入って来て、「どうしたの、何があったの。」と騒ぎ立てていた。そして個室の中に入ろうとしたので襟首をつかんで引き止めた。
「余計なことをするんじゃないの。無闇に手を触れるんじゃないよ。」
例の陶器のビンには仕掛けた人間の指紋がついているかもしれない。クレヨンなどに無闇に触られた日には仕掛けた者と微かに繋がっているかもしれない糸が切れてしまう。
僕はクレヨンを押し出すように外に出て廊下に立っていた社長と北の政所様に隠しカメラらしいものを見つけたことを簡単に報告した。そして他も確認しようとした。社長は僕を呼び止めた。
「確認は君に任せる。使っていないと言っても男がずかずか入るところでもないから。終わったら僕のところに来てくれ。」
それだけ言うと社長は自分の部屋に戻って行った。
僕は他の個室ともう一ヶ所のトイレも確認したが、それらしいものはどこにもなかった。どうもあの一個だけらしい。仕掛けが手が込んでいそうなので大量には持ち込めないのかも知れない。
僕は部屋に戻るとデジカメを用意した。盗撮カメラを回収する前に写真を撮っておこうと思ったからだった。女土方はテキパキと準備する僕を心配そうな表情で黙って見ていた。
「ねえ、ちょっと手伝ってくれる。」
僕は女土方に声をかけた。写真を撮る時に誰かに確認しておいてもらわないと後で何かしらの問題が生じるのではないかと思ったからだった。
「私にできることなら何でも。何をすればいいの。」
女土方は快く応じてくれた。
「隠しカメラの写真を撮る時に立ち会って欲しいの。そばに立っていてくれるだけで良いから。」
女土方は立ち上がると僕の後について来た。
トイレの前には何人かが溜まってがやがやとやっていた。僕は、「ちょっとどいてね」と言うと女土方と一緒にトイレに入った。そして女土方に隠しカメラを確認させた。
「こんなところに仕掛けてあったのね。ひどいことをするわ、本当に。誰がこんなことをしたのか探し出して殴りつけてやりたいわ。」
女土方の顔が引き締まった。久しぶりに女土方の怒った顔を見たような気がした。女土方は腰を下ろすとその隠しカメラに手を伸ばそうとした。
「あ、触らないで。指紋がついているかも知れないから。」
女土方は驚いたように手を引っ込めた。
「そのままそこにいてね。」
僕は壁まで一杯に下がるとレンズを広角モードにして写真を撮った。
「もう少し、・・・。」
僕は同じ写真を数枚撮った。その後で隠しカメラをアップで何枚か撮ってから手袋をすると、できるだけ触れないようにビンの口をそっと持ってビニール袋に入れた。何だか刑事にでもなったような気分だった。
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