「大体のお話は分かりました。ただ、機械でやっているとなると難しいですね。機械を仕かけに来た時に捕まえれば建造物侵入などの犯罪が考えられますが、そうでないと誰がやっているのか特定するのはなかなか難しいでしょうね。もしも何か変わったことがあったら最寄の警察署に相談してみてください。近いのは、・・・」
年配の警察官はそう言って警察署の名前と連絡先を教えてくれたが、どうもこれと言った妙手はなさそうだった。
警察が帰って僕たちもそれぞれ自分の部屋に引き上げた。もっとも僕と女土方は同じ部屋で生活しているので戻るところは一緒だった。サルは自分の部屋があるのだが、居候のように僕達の部屋に入り浸っていて邪魔であることこの上ない存在だった。
部屋に帰っても二人とも何となく落ち着かない風情で立ったり座ったりしていた。僕だけがアイスコーヒーをがぶがぶ飲んでテレビを見ていた。
「良くそんなに落ち着いていられるわね。女の尊厳がかかっているのに。」
クレヨンが口を尖がらせて非難がましく言った。サルに何が尊厳だ。尊厳とはどういうものか分かりもしないだろうに、このサルは利いた風な事を言う。
「どうすればいいのかなあ、困ったわ。」
女土方も無闇と高い天井を見上げてため息をついた。僕は何となく心騒ぐものがあった。もしかしたら僕の奥底にそうした異常者の資質があるんだろうか。
クレヨンはどうでもいいのだが、女土方の顔に浮かんだ戸惑いの表情が何ともかわいらしく思えて僕の感情を刺激した。こんな時に全く不謹慎と言われればそのとおりなのだが、大体男と言う生き物などそんなものだろう。
「確認すればいいじゃない、おかしな機械があるのかどうか。それとそのサイトと言うのも。あなたは誰が火元なのか知っているんでしょう。」
僕はテレビから眼を離すと女土方を振り返った。
「ちょっと叩けばすぐに吐くでしょう。サイトのURLくらい。」
天井を仰いでいた女土方は僕の声に視線を床に落とした。
「本当にうちの会社ならきちんと調べて手を打たないと被害者が増えるばかりでしょう。知っていることがあったら教えて。」
僕はもう一度女土方に問いかけたが、女土方は床の一点を見つめたまま黙っていた。
「ねえ、サイトの名前くらい知っているんでしょう。」
僕がもう一度念を押すように聞くと女土方は顔を上げずにゆっくりと頷いた。
「確認するから教えて、そのサイトの名前を。」
女土方はゆっくりと顔を上げると僕を見た。
「知ってるわ。そのサイト。でも内容を見る勇気なんて私にはないわ。」
「何て言うの、そのサイト。」
女土方は小さな声であるサイトの名前を口にした。それは米国のサーバーに存在するその手の危ないサイトがたむろす有名なレンタルサーバーだった。
「ああ、知ってるわ。そのレンタルサーバー、危ないサイトがひしめいているところね、そのサーバーって。」
僕はすぐにパソコンを立ち上げてそのサーバーにアクセスした。
日本ブログ村へ(↓)