「あなたたち、そんな冗談を言っている場合じゃないでしょう。私たち女性の尊厳の危機なのよ、少しは真剣に考えてね。ネットに公開された写真はあなたたちのかもしれないのよ。」

「いやあ、やめて。私生きていけないわ、そんなことになったら。」

クレヨンが大声を上げて騒ぎ立てた。サルにもそれなりの羞恥心があるということはそれなりの発見かもしれない。

しかし、生きて行けないとはよく言ったものだ。こいつの寝姿でも写メしてネットに投稿してやろうか。

しかし、僕はそれでも何となく複雑な心境だった。そういうところを写して公開するという行為は許されざるものではあることは間違いないが、心のどこかに身につまされないというか、やはり他人事という感覚がないと言ったらうそになるというのが本音だった。

「取り敢えず警察に連絡しましょうか。あの振り込め詐欺の件で。録音テープもあるから。そのついでに盗撮の件も相談してみたら。」

僕は立ち上がって電話を取ると警察に電話をした。金融王の名前を告げると交換からすぐに当直主任という警察官に替わった。その警察官に振り込め詐欺のことを話すと「すぐに伺います。」と言って電話を切った。

そしてそれから間もなく来訪を告げるチャイムが鳴って警察官が二人来た。

年配の当直副主任という警察官に出来事のあら筋を話した。

「被害がなくて結構でした。対応も大変落ち着いていらっしゃったようでご立派でした。」

年配の警察官はずい分大げさに褒めてくれた。実際どう思っているのかは知らないが、どうも金融王のご威光もあるようだった。

警察などと言う権力機関はさらに大きな権力には案外弱いのかも知れない。

「相手の電話番号は記録してあります。それから話は録音してありますから必要ならメディアを差し上げます。」

僕がそう言うと年配の警察官はもう一人の若い方に指示して書類を書かせた。

「これがメディアを提出してもらう書類でこれが提出してもらった証拠の目録で、」

若い方の警察官は一枚一枚書類を説明して住所と名前を書いてくれと言った。僕は言われるままに書類に自分の名前を書いていった。

「ではこれで、今後も何かあれば電話をいただければすぐに参りますから。緊急の場合は一一〇番でお願いします。」
そう言って二人は立ち上がった。

「あの、ちょっとお聞きしたいんですけど、実は職場が盗撮の被害にあっているようなんですが、どうしたら良いんでしょうか。警察にお願いすれば良いんでしょうか。」
僕がそう切り出すと二人の警察官は顔を見合わせた。

「お勤め先はどちらですか。MJBの本社ですか。」
二人は僕が金融王の銀行に勤めていると思ったらしい。

「いえ、外国語教育出版社です。」
僕は会社の名称と所在地を告げた。二人の警察官はちょっと怪訝な顔をしたが、「盗撮とはどんなことですか、誰かが会社の中で、」と状況を聞き出した。

僕は女土方を振り返った。状況は僕よりも女土方の方が詳しいと思ったからだった。女土方も噂に毛が生えた程度しかその盗撮の状況を知らないので困ったような顔をしたが、それでも落ち着いて手短に聞いたことを説明した。

日本ブログ村へ(↓)

https://novel.blogmura.com/novel_long/