食器を下げて戻って来た女土方は椅子に座るとコーヒーを一口飲んで僕の方を向いた。

「ねえ、ちょっと聞いて。変な噂があるの。あなたは聞いているかどうか知らないけど。」

女土方のちょっと困ったような戸惑ったような表情に、ぼんやりと見るともなしにテレビのバラエティに視線を投げていた僕は女土方の方を向き直った。

「どんな話なの、私は何も聞いていないけど。職場のことなの。」

女土方はちょっと言葉に詰まったように俯いた。女土方がこんなに困惑した表情を見せるのは滅多にないことだった。

「あのね、まさかとは思うんだけど、変なことを耳にしたの。」

「何かまずいことでもあったの。そんな顔して。あなたらしくないわ。困ったことがあるんだったら相談に乗るわよ。力になれるかどうか分からないけど。」

女土方はコーヒーを口に含んでちょっと考えるようなそぶりを見せたが、すぐにコーヒーを飲み込むとまた口を開いた。

「私にも困ったことなんだけど私だけじゃないの、あなた達にも大いに関係があることなの。私たち全員にとって大問題なのよ。私たちだけじゃない、会社の女性にとって大問題・・・なのよ。」

「え、何、何、何のことなの、その問題って。」
おばかなバラエティを見て転げていたクレヨンが話に割り込んできた。

こいつが割り込んできても何もならない。このサルは間違いなく問題を解決する方のジャンルではなく問題を起こす方のジャンルに属する生き物と言っても間違いではない。

だからこいつが話に入ってくると問題がこじれるだけだ。大人しくおばかな番組でも見ていれば良いのに。

「ねえ、私たち全員に関係あるって何のことなの。」

「うん、今話すけど落ち着いて聞いてね。かなりショッキングな話だから。」

女土方はもう一度コーヒーを口に含むと目を瞑った。そしてしばらくそのまま何かを考えているようだったが、目を開けるとカップを置いた。

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