「私も一緒に行く。」
 サルが腕にしがみついた。しょうがない奴だ。

「すぐに出るから早くするのよ。そうじゃないと置いて行くからね。」
 サルは駆けるように部屋に戻るとパジャマの上に上着を羽織って戻って来た。ぐずぐずしていると本当に置いて行かれると思ったのだろう。

「あんたねえ、下も何か着たらどうなの。」
 こいつのあまりのいい加減さに一言言いたくなったが、本人は意に介さないようだった。

「だって車で迎えに行くだけでしょう。どこかによるわけでもないし、車に乗っていれば良いんだから。」

僕たちに割り当てられたお買い物用高級国産車に乗り込むと会社へと向かった。夜の都内は閑散として車は訳もなく会社の前に到着してしまった。

「ぼおっと乗っていないで電話で呼んでよ、彼女を。」
 僕は呆けたように視点の定まらない眼を外に向けて座っているクレヨンの頭を小突いてやった。クレヨンは慌てて電話を取り出すと女土方に電話を入れた。

「すぐに降りて来るって。」
 クレヨンは僕を振り返ると底が抜けたような笑顔でそう言った。そして程なく女土方が会社から出て来た。

「夜遅くに悪かったわね、わざわざ迎えに来てもらって。」
 女土方は後部座席に納まると寛いだ柔らかな表情を見せた。

「ところで例の電話は大丈夫だったの、振り込め詐欺とか言っていたけど。」
 女土方は一旦座席に沈めた体を乗り出すようにして聞いて来た。

「そうなの、驚いてしまったの。だってお父さんが事業に失敗して逮捕されるって言うから。」
 クレヨンは女土方の方を、身を乗り出すように振り返って話し始めた。

「私、どうしようかと思って、色々考えちゃったわ。お金をどうして用意しようかと。」
 このサルは5万円も用意出来ないくせに生意気にどうやって5百万円を手当てするつもりだったのだろうか。何とも気の毒なのは日本の経済を支えるメガバンクの頭取として世界を股にかけて飛び回っている金融王だろう。何しろ娘に5百万で警察に逮捕されてしまう程度にしか認識されていないのだから。

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