「その、あれだ、ほら、今流行のエコ技術、・・・。環境技術だ。」
「どんな環境技術なのよ、投資したっていうのは。」

「それは、・・その、・・太陽光発電、そう、家庭用太陽光発電装置だよ。」
「ふうん、それで5百万も、投資したのね。分かったわ。ところで今どこにいるの。これから直接届けるから。どこに持って行けばいいの。」

「今は取引先にいる。取りに行かせるから渡して欲しい。」
「そんな大事なことなんだから直接持って行くわ。場所を教えて。」
相手もこれにはちょっと困ったようだ。それはそうだろう、顔を合わせればばれてしまうんだから。それに警察でも一緒に来ようものなら一網打尽で御用になってしまう。」

「いや、もう夜遅いし、お前たちにこれ以上負担はかけたくない。金さえ届けば問題はないんだから使いに金を渡してくれ。」
娘を気遣う風を装うなんてなかなか泣かせる奴等だ。でも芝居に付き合うのもそろそろ終わりにしたくなってきた。

「ねえ、お父さん、私は誰だか分かる。」
電話の向こうで相手がぐっと声を詰まらせるのが手に取るように分かった。『俺だ、俺だ』と言って相手が名前を聞いたところで、『そう、そのだれだれだ。』と言うのがやり方だろうが、それを逆に身も知らない相手の名前を聞かれたら言葉に詰まるだろう。

「何を言っているんだ、分かるに決まっているだろう。ヨシエだろう、バカなことを聞くな。」
当てずっぽうだろうが、こっちの名前を当てられて今度はこっちが一瞬言葉に詰まった。しかし、百戦錬磨の中年男子を舐めるんじゃない。

「あのね、誰か知らないけど私の父はもう亡くなっているわ。それにこの家のご主人は5百万くらいの金で青くなるような人じゃないの。もういい加減に猿芝居は止めなさい。最初に電話に出たのも美香なんて名前じゃないわ。それとね、この会話は全部録音しているから警察に渡すわよ。いいわね。」

すべて言い終わらないうちに電話は切れた。受話器を置くと間もなくまた電話が鳴った。性懲りもない奴だと思って電話を取ると女土方だった。

「もしもし、どうしたの」
女土方が怪訝そうな声で聞いた。

「あ、ごめんなさい。今さっき変な電話があったんでまたその電話かと思って。終わったの、迎えに行くわ。まだ会社なの。」

「変な電話、何の電話なの。」
女土方は電話の内容を気にしているようだった。

「ええ、あれよ、振り込め詐欺。クレヨンがすっかり騙されて5百万円を渡すところだったわ。」
「私はお金を渡すなんて言ってないでしょう。ちょっとお父さんが心配だっただけよ。」
後でサルが文句を言ったが放っておいた。

「もう大丈夫だからこれから迎えに行くわ。会社でいいの。」
「そうしてもらえるとありがたいわ。片付けがあるのでもう少しかかるけど。」

「じゃあこれから支度して出るわ。片付けている間にそっちに着けると思うから。」
僕は電話を切るとすぐに出かける支度をした。支度と言っても財布や免許証の入ったバッグを持つだけだが、・・。

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