そのために日本海軍が何をしたかというとほとんど何もしなかったというのが事実に最も近い。護衛部隊には旧式駆逐艦と海防艦、敷設艦、駆潜艇、掃海艇、特設駆潜艇など旧式かつ低戦力の艦艇が一握りほどあてがわれたに過ぎない。
開戦から1年ほどは日本軍が優勢だったことや米軍も潜水艦の整備不足や魚雷の不具合などで活動が低調だったが、18年頃からかなり活動が活発になって被害が増え始め、19年に入ると日本の輸送船団は出せばほとんど撃沈される状態になった。
この体たらくで資源の供給が止まって首が絞まってしまうことを危惧した海軍は海上護衛総隊などという護衛専門の部隊を創設し、戦時急造の8百トン程度の海防艦という艦種を大量建造して何とか航路を確保しようとやっきになったが、相手の米軍潜水艦を見つける目や耳に当たるレーダーやソナーは米軍に及ばず、搭載武器も劣るという状態では護衛艦が身を守ることも儘ならず出せば船舶は撃沈されて日本の補給線は干上がってしまった。
航路を護衛すべき当時の日本海軍は艦隊決戦ただ一筋に建造された単一機能海軍で戦闘には無闇と熱心だったが、商船の護衛などにはとんと関心を示さず国家総力戦などと言いながら闇雲に生産力20倍の米国相手に戦いを仕掛けて木っ端微塵に粉砕された。
機動部隊の航空攻撃には海軍主力も対抗できなかったのだから仕方がないにしても潜水艦相手ならもう少し何とか策がなかったものかと今更ながらつくづく思う。英国などはUボートの脅威に直面して護衛艦を大量建造し、航空機を整備し、武器を改良し、そして護衛方法を確立して遂にUボートを押さえ込んだ。もっともこれも戦勝国ゆえのことかも知れないが、その長期的な展望に基づく努力には見習うべきところが少なくない。
資源地帯の確保と長期自給体制の確立などと言っても取り敢えず戦争を始めるための理由付けの官僚による作文で誤魔化しておいて実質は何もなかった日本とは天と地ほどの隔たりがある。どうも日本という国は長期的な展望の下に何かを組み立てるということが苦手なようだ。選挙の争点も税金問題や年金問題という生活と直結した目先の身近なものや政治家の不祥事がほとんどで長期的な国家的展望に立った政策など薬にしたくても出ては来ない。
大体、当時の日本の軍備というものが長期自給を目的として整備されていない。艦船の居住性は劣悪で長期の作戦には向かないし、足も長くない。飛行機の耐久性もさほど長くはなかったらしい。エンジンの耐用時間は概ね100時間程度だったそうだ。要するに乾坤一擲の大作戦にかけていたわけだろう。そうすると防弾を省いてしまった零戦や陸攻のことも理解出来ないこともない。たった1回戦だから損害は省みずに勝てば良かったのかも知れない。
第一、何時も行動のための燃料に四苦八苦している海軍がどうして燃料の安定輸送を目指さなかったのか理解に苦しむ。相手の主力を撃破してしまえば問題はないということだったのかも知れないが、あの戦いは1回戦くらい勝ってもどうにもなるものではなかったことは当時の軍部も承知だったはずだ。
今も政府のこんな傾向は続いているように思う。施策よりも作文で適当に糊塗しておいてその間に方策を探るやり方だ。どうもよくもこんなことでまがいなりにも国家の体裁を維持していると思うほどだが、そんな点でもかなり不思議な国だと思う。
一体誰が主導しているのか国家の顔も見えて来ない。顔の見えない裏側であれこれいろいろと施策をしているんだろうが、表に見えるのはレベルの低いマスメディアの空中戦ばかりだ。小泉前首相は選挙では勝ち続けたが、これは政策どうこうと言うよりは、もしかしたら日本人は強力な指導者の指導体制下で生きて行く方が好みなのかも知れない。
金を納めた年金記録をどこかにぶっ飛ばしてしまった社会保険庁も大したものだが、元々年金制度などは右上がりの社会体制下で国家が長期にわたって安定して使うことが出来る財源を確保するためのような気がしないでもない。
右下がりの社会になって年金制度自体が崩壊の危機に瀕しているのだからこの際廃止して金の払い戻しをしまって年金に替わるほかの方法を検討しても良いように思う。この先国家を主導する者はは国民の運命共同体である国家の行方をしっかり考え、個人は自分の行方をしっかり考える、そんな大人の国家と大人の個人の付き合いが必要なのかも知れない。