「わ、た、し、は、お、か、ま」
女土方はグラスを振りながら一言一言わざと区切って繰り返した。ずっと昔の旧ソ連の女性宇宙飛行士が「私はカモメ」と宇宙から伝えて来たというのは聞いたことがあるが、「私はオカマ」と言ったのは聞いたことがない。
僕はさすがに「うーん」と唸ってしまった。もしも本当に女土方が男だったら、何と僕は元男と散々乳繰り合っていたことになる。女の体に乗り移ってしまった男と性転換した男の絡みって、それは一体どういうことなんだ。
でもどう考えてもこれまで僕が見た限りでは女土方が性転換手術をした元男だとは思えないんだが、最近の性転換手術はそこまで進んでいるんだろうか。クレヨンはあまりの驚愕のために顎が外れそうな顔をしていたが、ママはへらへら余裕で笑っていた。
「ここはね、本当はそういう人の集まるところなの。ずっと前にビアンバーと言ったけどあれはあなたを驚かせないようにそう言ったの。ママも『お、か、ま』なのよ。うそだと思ったら聞いてみたら。」
僕は恐る恐るママを見るとママは笑顔で肯いた。それじゃあ何かい、ついこの間、僕はオカマに散々胸をまさぐらせたのかい。一体この世はどうなっているんだ。でも僕はまだこの話を信じられなかった。
どんなに良く出来たオカマでも三人に一人くらいは縦から見ても横から見ても斜めから見てもこれは間違いなく男に違いないと言う手合いがいるものだ。ところがここにはその手がいないから僕は絶対に違うとは思うのだが、これだけ断定的に言われるとさすがに自信がなかった。
でも待てよ、女土方がオカマだったらどうして女に付くんだ。おかしいじゃないか。僕は動揺の中、やっとのことで女土方発言の矛盾に気がついた。
「ねえ、おかしいじゃない。あんた達がオカマだったらどうして女に付くのよ。」
僕は天地もひっくり返るかと思われるような驚天動地の中、やっとのことでそれだけを言った。
「ビアンのオカマもいるのよ。」
女土方はすました顔でそんなことを言った。ビアンのオカマだって。そりゃ一体何者だ。生物学的には男性で、その上、女が好きだと言うことは、それは普通の男じゃないのか。もう何が何だか訳が分からなくなって来た。