翌日は出勤に及ばないと言うことだったのでその気になって寝ていたら社長からの電話で起こされた。休みではなく社外勤務で出張扱いとのことで昨日の状況報告を求められた上に今後は午前午後の二回北の政所様あてに状況を報告するよう指示されてしまった。給料が支給されるのだから当たり前と言えば当たり前のことで休み気分になっていた僕たちが甘かった。
最も個人的な関係で社員を使うのも筋違いではないかと言いたいところだが、社のメインバンクということになると広い意味ではその家族のことに対応することも公務に含まれるのかもしれない。しかし皆を巻き込んだ渦巻きの中心人物であるクレヨンは毛布を肌蹴たお世辞にも上品とは言えない姿で眠りこけていた。枕を蹴上げて起こしてやろうとすると女土方がそっと制止した。
「この子も疲れているのよ。目が覚めるまで寝かしておいてあげましょう。」
こういうところが女土方は優しいんだ。ぼくにはどうもその辺がきつくなってしまう。でもそれも良し悪しだと思うけど僕は女土方のその優しさに惹かれたのかもしれない。もっとも女土方との出会いは衝撃的だったけれど。
「お目覚めですか、お食事を用意しますが何時もの朝食でよろしいでしょうか。」
お手伝いが顔を出して朝食の注文取りに来た。何時ものと言われても分からないのでどんなものかと聞くとここの家では朝食はイングリッシュブレックファーストに決まっているのだそうだ。外に働きに出る時は十分に栄養を摂ってから出ると言うのがここのご主人の主義なんだそうだ。
僕達は着替えるとダイニングに下りて行った。なるほどそこには朝からこんなに食うのかというほどの料理が並んでいた。ハム、ソーセージ、卵、チーズ、シリアル、果物、野菜にトーストと牛乳、ジュースにコーヒー、確かに英国で一番うまい食事は朝食だということは知っていたが、まさしくそのとおりの朝食だった。
僕達は出されたものをたらふく食ってから今日からどうするかを話し合った。女土方はクレヨンも思春期に母親を亡くして父親は多忙で不在がちだったようだし、淋しいことが多かったのだろうと同情的だった。でも僕はその意見には同調出来なかった。
確かに斟酌すべき理由はあるのかもしれない。しかしどうも今の世の中は子供が悪いことをするとやった本人は責められずに大人が悪いの社会が悪いのとまるで大人や社会が悪いことをさせたように言うがこれは大きな間違いだし子供の犯罪を増徴させることにも繋がりかねないと思う。
三つ子がしたことならそれは周囲や社会が悪いのかも知れないが少なくとも善悪の区別がつくような年齢の子供であればそれは何よりもまずやったやつが悪いんだ。それを知らしめた上で周囲の責任や社会の問題を考えていくべきだ。それを子供の犯罪が起こるとまるでやった本人には罪はなく社会や周囲が悪いと言う。
それも天下の秀才が雲霞のように集まっている新聞やテレビなどのメディアがこぞってそうした報道をばかの一つ覚えのように繰り返す。何よりも罪を犯した者の責任と言うものをしっかりと認識させてその後に背景を考えて行くべきではないのだろうか。あんなことばかりしていたらがきがつけあがるのも無理はない。だからがきが呆れるような凶悪な犯罪を繰り返すんだ。
何時か女子高生をさらって一ヶ月くらいも監禁して暴行と強姦を繰り返して殺し、その後ドラム缶に死体を入れてコンクリートで固めて捨てた事件があったが、あんなことをしたやつ等は高圧電流を流した柵で囲った土地に地雷でも山ほど埋めてその中を歩かせれば良い。ついでに背中に爆薬でも背負わせて一時間以上動かないで留まっていたら爆発するようにしておくか、留まっていたら機銃掃射でもしてやればいい。
そこで一週間生きていられたら更生施設にでも移してしっかり罪を償わせて更生させた後で放免にでもしてやればいい。何よりもまず自分が犯した罪がどのようなものなのかその重さをしっかりと知らしめておく必要がある。理不尽に他人に命を奪われる、理由もなく自分の財産を奪われると言うことがどういうことなのか思い知らせてやらなければ犯罪者の更正なんてことはあり得ないと思うのだが。もっとも罪と言うのは人間が背負った業のようなものだから永遠の課題として考えていかないといけないのだろう。そんなことを女土方に話したら呆れた顔をされてしまった。
「どうしてあなたってそうして過激になってしまったのかしらねえ。言ってることは間違ってはいないけど、どうして地雷を埋めてそこを歩かせろなんて発想が出てくるのかしら。それに澤本さんは何も悪いことはしていないじゃない。」
確かに罪は犯していないのかも知れないがこれだけ他人に迷惑をかけているじゃないか。それに不法滞在の外国人を援助することは不法滞在助長罪という犯罪になるのだそうだ。もっとも相手が不法滞在と知っていて宿泊施設を提供したり職業を斡旋した場合のようだけどクレヨンにはそんなに気の利いたことは出来ないだろう。
「まさかあなたはあの子に地雷原を歩かせようなんて思っていないでしょうね。一応念のために聞くけど。」
日本は対人地雷廃棄条約を批准して自衛隊も百万個の対人地雷を廃棄したのに今更地雷原なんてどこにあるんだ。
「彼女にも思うところもあれば言い分もあるんだからお前を見ていると鳥肌が立つなんて言ってはだめよ。いいわね。」
こうして女土方にしっかりと釘を刺されてしまった。女土方は優しい女だ。いやなことでも頼めば引き受けてくれる。北の政所様の時もそうだったし今回のこともあきれながらも僕を助けてくれる。しかも僕にだけでなくクレヨンにも優しい。
それはこの女が孤立無援になった時の心の辛さ苦しさを良く知っているからだと思う。知っているからどうしてやればいいのか分かるし手間がかかるとは思っても何かをしてやろうと思うのだろう。無知は強い。知らなければ何も怖くはないし辛くもない。少なくとも他人の辛さ苦しさは素通りして何の感情も抱かないだろう。だから知るということは大切なんだ。そうするとやっぱりろくでなしには地雷原を歩かせないといけないのかも知れない。
「あのサルの言い分を聞くのはいいけれど聞いてもどうせろくなことは言わないわ。手前味噌ばかりでしょう。個人の自由と言うけれどそれは義務と責任と表裏一体だということは知らせておかないといけないと思うわ。」
女土方はくすくす笑い出した。
「あなたって本当に強硬路線なのね。でもあの子ももう大人の女性なんだからサルなんて言ってはいけないわ。それにあの子悪い子じゃないわ。きっと一人で淋しいだけなのよ。あなたの言うことは何時ももっともだと思うけど誰もみんなあなたのように臨機応変に対応できるわけでもないし何でも自分で解決してしまうほど強いわけでもないのよ。
それぞれその人なりの対応の仕方があれば接し方もあるのよ。それを分かってあげないと。ただ状況を良く考えて行動しろ、強くなれと言っても自分ではどうしようもない人がたくさんいるのよ。あなたが出来すぎなのよ。」
女土方は僕にもっと優しくなれ、手取り足取り教えてやれと言っているが、どうも僕にはそういうことは出来そうもない。別のことなら手取り足取りもあるかもしれないが、それもクレヨンではちょっと願い下げだ。でも僕が出来過ぎなんて言うが、女土方だってかなりのものだろう。
「あなただって立派に出来過ぎじゃない。それだけしっかり強かに生きて行ければ十分だと思うけど。でも剛と柔で私たちは良いコンビなのかもしれないね。分かったわ、今回はあなたに任せて良いかしら。悪い子じゃないのかもしれないけど私はどうもあの手は苦手だわ。」
「そうかもね、森田さんとは違って私の方があの子には向いているかもしれない。こうなったら仕方ないわね。」
女土方は苦笑しながら頷いた。
最も個人的な関係で社員を使うのも筋違いではないかと言いたいところだが、社のメインバンクということになると広い意味ではその家族のことに対応することも公務に含まれるのかもしれない。しかし皆を巻き込んだ渦巻きの中心人物であるクレヨンは毛布を肌蹴たお世辞にも上品とは言えない姿で眠りこけていた。枕を蹴上げて起こしてやろうとすると女土方がそっと制止した。
「この子も疲れているのよ。目が覚めるまで寝かしておいてあげましょう。」
こういうところが女土方は優しいんだ。ぼくにはどうもその辺がきつくなってしまう。でもそれも良し悪しだと思うけど僕は女土方のその優しさに惹かれたのかもしれない。もっとも女土方との出会いは衝撃的だったけれど。
「お目覚めですか、お食事を用意しますが何時もの朝食でよろしいでしょうか。」
お手伝いが顔を出して朝食の注文取りに来た。何時ものと言われても分からないのでどんなものかと聞くとここの家では朝食はイングリッシュブレックファーストに決まっているのだそうだ。外に働きに出る時は十分に栄養を摂ってから出ると言うのがここのご主人の主義なんだそうだ。
僕達は着替えるとダイニングに下りて行った。なるほどそこには朝からこんなに食うのかというほどの料理が並んでいた。ハム、ソーセージ、卵、チーズ、シリアル、果物、野菜にトーストと牛乳、ジュースにコーヒー、確かに英国で一番うまい食事は朝食だということは知っていたが、まさしくそのとおりの朝食だった。
僕達は出されたものをたらふく食ってから今日からどうするかを話し合った。女土方はクレヨンも思春期に母親を亡くして父親は多忙で不在がちだったようだし、淋しいことが多かったのだろうと同情的だった。でも僕はその意見には同調出来なかった。
確かに斟酌すべき理由はあるのかもしれない。しかしどうも今の世の中は子供が悪いことをするとやった本人は責められずに大人が悪いの社会が悪いのとまるで大人や社会が悪いことをさせたように言うがこれは大きな間違いだし子供の犯罪を増徴させることにも繋がりかねないと思う。
三つ子がしたことならそれは周囲や社会が悪いのかも知れないが少なくとも善悪の区別がつくような年齢の子供であればそれは何よりもまずやったやつが悪いんだ。それを知らしめた上で周囲の責任や社会の問題を考えていくべきだ。それを子供の犯罪が起こるとまるでやった本人には罪はなく社会や周囲が悪いと言う。
それも天下の秀才が雲霞のように集まっている新聞やテレビなどのメディアがこぞってそうした報道をばかの一つ覚えのように繰り返す。何よりも罪を犯した者の責任と言うものをしっかりと認識させてその後に背景を考えて行くべきではないのだろうか。あんなことばかりしていたらがきがつけあがるのも無理はない。だからがきが呆れるような凶悪な犯罪を繰り返すんだ。
何時か女子高生をさらって一ヶ月くらいも監禁して暴行と強姦を繰り返して殺し、その後ドラム缶に死体を入れてコンクリートで固めて捨てた事件があったが、あんなことをしたやつ等は高圧電流を流した柵で囲った土地に地雷でも山ほど埋めてその中を歩かせれば良い。ついでに背中に爆薬でも背負わせて一時間以上動かないで留まっていたら爆発するようにしておくか、留まっていたら機銃掃射でもしてやればいい。
そこで一週間生きていられたら更生施設にでも移してしっかり罪を償わせて更生させた後で放免にでもしてやればいい。何よりもまず自分が犯した罪がどのようなものなのかその重さをしっかりと知らしめておく必要がある。理不尽に他人に命を奪われる、理由もなく自分の財産を奪われると言うことがどういうことなのか思い知らせてやらなければ犯罪者の更正なんてことはあり得ないと思うのだが。もっとも罪と言うのは人間が背負った業のようなものだから永遠の課題として考えていかないといけないのだろう。そんなことを女土方に話したら呆れた顔をされてしまった。
「どうしてあなたってそうして過激になってしまったのかしらねえ。言ってることは間違ってはいないけど、どうして地雷を埋めてそこを歩かせろなんて発想が出てくるのかしら。それに澤本さんは何も悪いことはしていないじゃない。」
確かに罪は犯していないのかも知れないがこれだけ他人に迷惑をかけているじゃないか。それに不法滞在の外国人を援助することは不法滞在助長罪という犯罪になるのだそうだ。もっとも相手が不法滞在と知っていて宿泊施設を提供したり職業を斡旋した場合のようだけどクレヨンにはそんなに気の利いたことは出来ないだろう。
「まさかあなたはあの子に地雷原を歩かせようなんて思っていないでしょうね。一応念のために聞くけど。」
日本は対人地雷廃棄条約を批准して自衛隊も百万個の対人地雷を廃棄したのに今更地雷原なんてどこにあるんだ。
「彼女にも思うところもあれば言い分もあるんだからお前を見ていると鳥肌が立つなんて言ってはだめよ。いいわね。」
こうして女土方にしっかりと釘を刺されてしまった。女土方は優しい女だ。いやなことでも頼めば引き受けてくれる。北の政所様の時もそうだったし今回のこともあきれながらも僕を助けてくれる。しかも僕にだけでなくクレヨンにも優しい。
それはこの女が孤立無援になった時の心の辛さ苦しさを良く知っているからだと思う。知っているからどうしてやればいいのか分かるし手間がかかるとは思っても何かをしてやろうと思うのだろう。無知は強い。知らなければ何も怖くはないし辛くもない。少なくとも他人の辛さ苦しさは素通りして何の感情も抱かないだろう。だから知るということは大切なんだ。そうするとやっぱりろくでなしには地雷原を歩かせないといけないのかも知れない。
「あのサルの言い分を聞くのはいいけれど聞いてもどうせろくなことは言わないわ。手前味噌ばかりでしょう。個人の自由と言うけれどそれは義務と責任と表裏一体だということは知らせておかないといけないと思うわ。」
女土方はくすくす笑い出した。
「あなたって本当に強硬路線なのね。でもあの子ももう大人の女性なんだからサルなんて言ってはいけないわ。それにあの子悪い子じゃないわ。きっと一人で淋しいだけなのよ。あなたの言うことは何時ももっともだと思うけど誰もみんなあなたのように臨機応変に対応できるわけでもないし何でも自分で解決してしまうほど強いわけでもないのよ。
それぞれその人なりの対応の仕方があれば接し方もあるのよ。それを分かってあげないと。ただ状況を良く考えて行動しろ、強くなれと言っても自分ではどうしようもない人がたくさんいるのよ。あなたが出来すぎなのよ。」
女土方は僕にもっと優しくなれ、手取り足取り教えてやれと言っているが、どうも僕にはそういうことは出来そうもない。別のことなら手取り足取りもあるかもしれないが、それもクレヨンではちょっと願い下げだ。でも僕が出来過ぎなんて言うが、女土方だってかなりのものだろう。
「あなただって立派に出来過ぎじゃない。それだけしっかり強かに生きて行ければ十分だと思うけど。でも剛と柔で私たちは良いコンビなのかもしれないね。分かったわ、今回はあなたに任せて良いかしら。悪い子じゃないのかもしれないけど私はどうもあの手は苦手だわ。」
「そうかもね、森田さんとは違って私の方があの子には向いているかもしれない。こうなったら仕方ないわね。」
女土方は苦笑しながら頷いた。