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無言館という戦没美学生の遺品を収集展示している美術館が長野県上田市にあると知って是非一度尋ねてみたいと思っていたが、先日その機会を得た。

館は上田市の山間の小高い丘の上に建てられていた。ネットの写真で見たとおりとても静かな雰囲気だったが、連休だったせいかちょっと驚く位の訪問者の数だった。

館内は中に入った当初、目がなれるまでははうす暗く感じたが、その照度になれれば落ち着いて展示された作品を鑑賞出来るほどの明るさだった。

ここは普通の美術館とはどこか違っていた。主役がいない。館内に展示された作品群はその巧拙は別にしても美学生の作品だけあって素人離れしたものがほとんどだが、それらは決して主役ではなかった。

そこに展示された作品群を通じてもっと何か訴えかけるものがどこかにある。それは何だろう。そんなことを考えながら二度館内を回って展示物を眺めていた。

ひび割れ痛んだキャンバス、褪せて剥げ落ちた絵の具、それなのにどの作品も今さっき描かれたように輝いて見えた。ここで人を惹きつけて止まないのはこの絵を描いた美学生たちの美学への直截な姿勢、絵を描こうとする情熱なんだろう。それが今も輝きを失わずに見る者の心を捉えていたのだろう。

明日も知れない戦場の片隅で小さな紙片に鉛筆やペンで描いた小さな風景画や人物画、そんなものからも彼等が真剣に美術に向き合って描こうとしていた姿が偲ばれる。

粗末な紙に精一杯描かれた絵を通じて彼等が伝えようとしたことは時代や戦争に対する怨念ではなく彼等が愛した美学への直向な思いであったことがせめてもの救いだったように感じたが、それにしても道半ばにして斃れて行かざるを得なかった彼等の悲しみの深さをもその褪せた紙片に色濃く滲ませていたのが何とも言えず悲しかった。