「お金のことはいいんですけど私は何時までここにいればいいんですか。そんなに長い間ですか。」
「ここの主があと一ヶ月ほどで戻るから取り敢えずそれまでは。どうかな大変だとは思うけど豪邸の主にでもなったつもりで。ああそうだ。車も自由に使っていいそうだから。」
社長は気楽なことばかり並べ立てた。あのクレヨンがいなければそれは今流行のセレブにでもなったつもりになれるんだろうが、クレヨン付じゃあ爆薬背負って地雷原でも彷徨っているようなものじゃないか。とにかくこんなことになってしまったことを女土方に伝えなくてはと思い応接間から出て電話をかけた。事の顛末を告げると女土方はため息をついた。
「本当にあなたって面倒ばかり背負い込む人ね。それで私はどうすればいいの。何かして欲しいの。」
女土方は開いた口が塞がらないといった風情だった。男として生活している時は本当にこんな苦労はなかったのに人を避けて暮らしていたつけがまとめて来たのだろうか。
「ねえここで一緒に暮らしてくれない。私一人じゃ心細いわ。」
本当はここで暮らしていたら中身男の自分が何をしでかすかそれが怖かったのかも知れない。女土方はしばらく考えている様子だったが、以外にあっさりと思いもかけないことを言い出した。
「その子をうちに連れてくれば。その方が私達には都合がいいでしょう。うちね使っていないロフトがあるのよ。そこに入ってもらえばいいわ。その子には狭苦しいかも知れないけど私はあまり広いところは落ち着かないのよ。その辺で話をまとめてくれば。じゃあね。」
女土方は簡単に言うと電話を切ってしまった。確かにあっちの方がクレヨンの管理にはやり易いかもしれない。目は倍になるのだし家も狭いので監視も行き届くだろうし。しかし本当にいいのだろうかと首を傾げてしまったが、家主がそういうのだから良いのだろう。
でも女土方はどうして家に連れて来いなんて言ったんだろう。僕とクレヨンをこの邸宅に二人で置いておくのは危ないと思ったんだろうか。僕がクレヨンに手を出すとでも。言い訳じゃないが、僕はクレヨンには全く興味がなかった。
性格的に好きではないと言うのが一番の理由だけれど基本的にあまり年の離れた若いのはどうもいけない。ある程度価値観や時代を共有できる相手が良い。体で遊ぶだけなら若いのもいいのかもしれないが、あまりきゃんきゃんちゃらちゃらしていると一緒にいるだけで疲れてしまう。僕とクレヨンは親子くらいも年が離れているんだからそんなのと何かしでかす気にはとてもならない。第一ばかは大嫌いだ。
このことを社長に話すと「二人で見てくれるんならなおさら心強い。」と大喜びだった。もしかしたら僕の凶暴性を女土方が押さえてくれると思ってそれで安心したのかも知れない。ただ社長は父親の意向も確認するからとこの提案に一応留保をつけた。
「今晩だけはここに泊まってやってくれないかな。伊藤さんをここに呼んでもかまわないから。」
仕方がないのでもう一度女土方に電話をして確認すると「一晩くらいなら後学のためにお屋敷を見ておくのもいいかもね。じゃあ後であなたの着替えも持って行くから。」と言って承知してくれた。
「明日は出社しなくてもいいからここにいてくれないか。公私混同かもしれないが大目に見てよろしく頼む。伊藤さんにもそう伝えてくれ。」
公私混同かもじゃなくて思い切り公私混同だろう。こんなことで仕事を休んでいいなんて。そうこうしているうちにクレヨンが美容院から戻って来た。髪を短めにまとめて外見だけは少しはまともになって戻って来た。
「今日からしばらくの間、私生活も佐山さんと伊藤さんが見てくれることになった。迷惑をかけないようによくお願いしておきなさい。いいね。」
社長はクレヨンに諭すように言った。
「佐山さん、あなたは私が嫌いなんでしょう。どうして私の面倒なんて見るの。お手当てでも出るの。」
こいつはどうしてこういう憎らしい口しか聞けないんだろう。でも僕もこいつをかわいがってやった覚えはないから仕方がないのか。
「ええ、あなたのことは大嫌いよ。一緒になんかいるのは真っ平ごめんだけど行きがかり上仕方なくなってね。後に引けなくなっちゃったわ。この先あなたのお父様が帰ってくるまで一ヶ月なんて気が遠くなりそうだけどどうか面倒は起こさないでね。それからこれだけは言っておくけどお手当てなんかもらっていないわ。いいわね。」
そして続けて僕はこれからの生活の条件をクレヨンに言い渡した。
必ず毎日定刻に出社すること。
原則行動は一緒。
門限は午後十時。
休日の単独外出は認めない。
友達を呼ぶ時は予めどこの誰かを申告して許可を得ること。
自分の携帯は原則使用禁止。必要な時はこちらで与えるものを使用すること。
室内で騒音を立てないこと。
室内はきちんと片付けること。
食事、洗濯、買い物を含めて自分の身の回りのことは自分ですること。
クレヨンは悲鳴のような声を立てて文句を言ったが一切異議を認めなかった。自分で蒔いた種で騒動を起こした結果身に降りかかって来た制約なんだからどんな条件も甘んじて受諾するのが筋と言うものだ。これは敗戦後の保証占領のようなものと思ってもらいたい。条件に従わなければ武力行使もやむを得ない。こういうところは僕も女の姿をしているがやることは男丸出しだと思う。
クレヨンは携帯だけは今の自分のものを持たせて欲しいと言い張ったが、これも却下した。携帯が社会との窓口なのかも知れないが、他にもいろいろと方法がある。ネットをしたければパソコンを使えばいい。携帯なんかあのらくらくホンで十分だ。
そうこうしているうちに社長は会社に戻ると言い出した。社長も忙しいのだろうからこいつに付き合って何時までもここにいるわけにもいかないのだろう。北の政所様も一緒に帰るようなので夜女土方が来るまでは僕一人ということになる。
「ここの主があと一ヶ月ほどで戻るから取り敢えずそれまでは。どうかな大変だとは思うけど豪邸の主にでもなったつもりで。ああそうだ。車も自由に使っていいそうだから。」
社長は気楽なことばかり並べ立てた。あのクレヨンがいなければそれは今流行のセレブにでもなったつもりになれるんだろうが、クレヨン付じゃあ爆薬背負って地雷原でも彷徨っているようなものじゃないか。とにかくこんなことになってしまったことを女土方に伝えなくてはと思い応接間から出て電話をかけた。事の顛末を告げると女土方はため息をついた。
「本当にあなたって面倒ばかり背負い込む人ね。それで私はどうすればいいの。何かして欲しいの。」
女土方は開いた口が塞がらないといった風情だった。男として生活している時は本当にこんな苦労はなかったのに人を避けて暮らしていたつけがまとめて来たのだろうか。
「ねえここで一緒に暮らしてくれない。私一人じゃ心細いわ。」
本当はここで暮らしていたら中身男の自分が何をしでかすかそれが怖かったのかも知れない。女土方はしばらく考えている様子だったが、以外にあっさりと思いもかけないことを言い出した。
「その子をうちに連れてくれば。その方が私達には都合がいいでしょう。うちね使っていないロフトがあるのよ。そこに入ってもらえばいいわ。その子には狭苦しいかも知れないけど私はあまり広いところは落ち着かないのよ。その辺で話をまとめてくれば。じゃあね。」
女土方は簡単に言うと電話を切ってしまった。確かにあっちの方がクレヨンの管理にはやり易いかもしれない。目は倍になるのだし家も狭いので監視も行き届くだろうし。しかし本当にいいのだろうかと首を傾げてしまったが、家主がそういうのだから良いのだろう。
でも女土方はどうして家に連れて来いなんて言ったんだろう。僕とクレヨンをこの邸宅に二人で置いておくのは危ないと思ったんだろうか。僕がクレヨンに手を出すとでも。言い訳じゃないが、僕はクレヨンには全く興味がなかった。
性格的に好きではないと言うのが一番の理由だけれど基本的にあまり年の離れた若いのはどうもいけない。ある程度価値観や時代を共有できる相手が良い。体で遊ぶだけなら若いのもいいのかもしれないが、あまりきゃんきゃんちゃらちゃらしていると一緒にいるだけで疲れてしまう。僕とクレヨンは親子くらいも年が離れているんだからそんなのと何かしでかす気にはとてもならない。第一ばかは大嫌いだ。
このことを社長に話すと「二人で見てくれるんならなおさら心強い。」と大喜びだった。もしかしたら僕の凶暴性を女土方が押さえてくれると思ってそれで安心したのかも知れない。ただ社長は父親の意向も確認するからとこの提案に一応留保をつけた。
「今晩だけはここに泊まってやってくれないかな。伊藤さんをここに呼んでもかまわないから。」
仕方がないのでもう一度女土方に電話をして確認すると「一晩くらいなら後学のためにお屋敷を見ておくのもいいかもね。じゃあ後であなたの着替えも持って行くから。」と言って承知してくれた。
「明日は出社しなくてもいいからここにいてくれないか。公私混同かもしれないが大目に見てよろしく頼む。伊藤さんにもそう伝えてくれ。」
公私混同かもじゃなくて思い切り公私混同だろう。こんなことで仕事を休んでいいなんて。そうこうしているうちにクレヨンが美容院から戻って来た。髪を短めにまとめて外見だけは少しはまともになって戻って来た。
「今日からしばらくの間、私生活も佐山さんと伊藤さんが見てくれることになった。迷惑をかけないようによくお願いしておきなさい。いいね。」
社長はクレヨンに諭すように言った。
「佐山さん、あなたは私が嫌いなんでしょう。どうして私の面倒なんて見るの。お手当てでも出るの。」
こいつはどうしてこういう憎らしい口しか聞けないんだろう。でも僕もこいつをかわいがってやった覚えはないから仕方がないのか。
「ええ、あなたのことは大嫌いよ。一緒になんかいるのは真っ平ごめんだけど行きがかり上仕方なくなってね。後に引けなくなっちゃったわ。この先あなたのお父様が帰ってくるまで一ヶ月なんて気が遠くなりそうだけどどうか面倒は起こさないでね。それからこれだけは言っておくけどお手当てなんかもらっていないわ。いいわね。」
そして続けて僕はこれからの生活の条件をクレヨンに言い渡した。
必ず毎日定刻に出社すること。
原則行動は一緒。
門限は午後十時。
休日の単独外出は認めない。
友達を呼ぶ時は予めどこの誰かを申告して許可を得ること。
自分の携帯は原則使用禁止。必要な時はこちらで与えるものを使用すること。
室内で騒音を立てないこと。
室内はきちんと片付けること。
食事、洗濯、買い物を含めて自分の身の回りのことは自分ですること。
クレヨンは悲鳴のような声を立てて文句を言ったが一切異議を認めなかった。自分で蒔いた種で騒動を起こした結果身に降りかかって来た制約なんだからどんな条件も甘んじて受諾するのが筋と言うものだ。これは敗戦後の保証占領のようなものと思ってもらいたい。条件に従わなければ武力行使もやむを得ない。こういうところは僕も女の姿をしているがやることは男丸出しだと思う。
クレヨンは携帯だけは今の自分のものを持たせて欲しいと言い張ったが、これも却下した。携帯が社会との窓口なのかも知れないが、他にもいろいろと方法がある。ネットをしたければパソコンを使えばいい。携帯なんかあのらくらくホンで十分だ。
そうこうしているうちに社長は会社に戻ると言い出した。社長も忙しいのだろうからこいつに付き合って何時までもここにいるわけにもいかないのだろう。北の政所様も一緒に帰るようなので夜女土方が来るまでは僕一人ということになる。