「本当に分からない人ね。誰をどう好きになろうとそれは個人の生き方でしょう。その人たちにとって価値のある素敵な関係であればそれでいいことじゃない。他人がとやかく言うことではないわ。ましてそれがきれいだの汚いだのどうしてそんなことが言えるの。
あなたにもいろいろと事情はあるのでしょうけど他人を楯にしたり他人の力を使って一生懸命生きていこうとする人を侮辱するような人よりもビアンでも何でも自分の力で自分の生き方を切り開いて行こうとする人たちの方がずっと素敵だと思うわ。あなたが私に何かするつもりならどうぞ遠慮なくやってご覧なさい。血筋やお育ちはよろしいようだけど周りに人がいなければ自分では何も出来ない人なんか怖くも何ともないわ。」
北の政所様の白い顔が今度はさっと赤みを帯びた。そしてすっと立ち上がると「立ちなさい。」と低い声で僕に向かって言った。言われるまでもなく開戦を決意していた僕も立ち上がって北の政所様に向き合った。
「もう一度言ってご覧なさい。私の生立ちが何の関係があるの。私が虎の威を借る狐って言うの。そんなことを言うことは絶対に許さないわよ。」
北の政所様は怒りで全身を震わせていた。このような場合アメリカが得意とする『相手に先に一撃を加えさせて自分の武力行使を正当化する。』という方法が妥当と判断して次の手に出た。
「ええ何度でも言ってあげるわ。自分のバックボーンを使って徒党を組んで一生懸命生きようとしている人達を侮辱するような人は最低だわ。」
言い終わってから「さあ来るぞ。」と悟られないように右足を少し下げて身構えた。その直後左の頬に衝撃を感じると同時に肉を打つ鋭い音が部屋に響いた。頬に痺れるような違和感があってその後すぐに口の中にぬるぬると血が流れ出して広がった。
北の政所様は怒りに任せてさらにもう一度僕を打つつもりだったのか右腕を大きく振り上げた。感情に任せて同じ手を二度も使ってしかもそんなに大きく振りかぶってはいけない。小さく鋭く相手の急所を殴って一発で片をつけなくては。そうでないとその隙を突かれて反撃を食らうことになる。
僕は大きく振りかぶった北の政所様の腕を自分の左腕で払うとそのまま脇に抱え込んで手前に引いた。北の政所様は他愛もなく僕の懐によろめくように飛び込んで来た。北の政所様を脇に抱えてそのまま後ろにしゃがみ込むように僕はベッドに腰を下ろした。そしてその背中をひじで押さえて動きを封じた。
「何するの、やめなさい。やめないとひどいわよ。」
北の政所様は叫び声を上げて足をばたつかせたがかまわずに背中を押さえ込んだ。
「あなたみたいな分からず屋さんはこうでもしなきゃ目が覚めないんじゃないの。」
僕はうつ伏せに押さえ込んだ北の政所様の浴衣の裾を思い切り跳ね上げると白いレースのパンティを引き下ろした。そこには思いの他かわいらしい白くて丸い北の政所様のむき出しのお尻があった。
「きゃあ、何するのよ。やめなさい。やめなさいってば。」
北の政所様が叫ぶのもかまわずに僕は子供のお尻を叩く要領で右手を振り上げると思い切り白いお尻を叩いた。この場合は相手を押さえ込んで動きを封じているからどんなに大きく振りかぶろうと反撃を食らうことはない。けんかも戦争も常に冷静な方が勝利するんだ。
僕の頬を打った時よりもずっと大きな乾いた音が部屋中に響き渡った。同時に「ひっ」という北の政所様の叫び声が聞こえた。打たれた北の政所様のお尻には朱色の手形がくっきりと浮き上がった。一度打った後、僕は顔を上げて取り巻きを睨み据えた。誰もが凍りついたように動かなかった。言葉さえ発する者もなかった。北の政所様も機能を停止したロボットのように動かなくなった。
「伊藤さんに謝りなさい。あなたは自分のしていることがまだ分からないの。」
僕はもう一度手を振り上げたが、口を開いた時に溜まった血が滴り落ちてまるで北の政所様の背中に赤い花が咲いた様に広がった。僕はもう一度力一杯手を白いお尻に向かって振り下ろした。また部屋中に乾いた音が響き渡り手形の朱色が大きくそして濃くなった。
「あなたも少しは分かったの。人の痛みが。何とか言いなさい。」
身動き一つしない北の政所様に向かって三度目に手を上げたところで誰かが僕の腕をつかんだ。
「もう止めなさい。」
女土方が強い口調で僕を制するとすばやく浴衣を引き下ろして北の政所様の下半身を覆ってやった。その瞬間僕は北の政所様のお尻に当分消えそうもないくらいくっきりと僕の手の跡がついていたのを見逃さなかった。いい気味だ。思い知ったか。
女土方はあれだけ自分を侮辱した北の政所様の身支度を整えてやったが、北の政所様はうつ伏したまま身じろぎもしなかった。僕は立ち竦んでいる親衛隊のところに行くと総務の係長が手に持っていたタオルを引っ手繰る様に取ってその中に口に溜まっていた血を吐き出した。そしてそれを親衛隊の皆様の足元に投げつけた。
「タオルを汚しちゃったわね。弁償するから後で請求してね。」
総務の係長に向かって吐き捨てるように言ったが、その間も口から流れ出した血が黄色のトレーナーに落ちて赤い染みを増やしていた。
「ねえ誰かもっと大きなタオルを取ってくれない。」
親衛隊の皆様は抱き合うようにして僕を見つめていたが、そのうちの一人がホテルのタオルを取り上げると震える手で恐る恐る僕に差し出した。
「ありがとう。」
僕はきちんとお礼を言ってタオルを受け取ると自分の口に当てた。
「さああなた達の頭領を早く部屋に連れて帰ってあげたら。」
僕は押し止めようとする女土方を押しのけてベッドにうつ伏せになったままでいる北の政所様の肩と帯をつかんで引き上げて起こした。顔面蒼白で放心したようなうつろな目をした北の政所様を引きずるようにして親衛隊のところに連れて行くと「さあ、行きなさい。」と声をかけてからお尻をもう一度軽く叩いて押し出した。よろよろと親衛隊の中に崩れ込んだ北の政所様を支えて親衛隊は潮が引くように部屋から出て行った。
僕は北の政所様ご一行が部屋から出て行くのを見送ってから立ち尽くしている女土方のそばに行くと流れ出る血を腕で拭ってから思い切り抱き締めた。何だか女土方がとても愛おしかった。でも僕の抱擁はすぐに女土方に突き放されてしまった。
「フロントに電話をしてお医者の手配をお願いするわ。出血が止まらないじゃない。女の顔にひどいことをする。」
僕は体を離した女土方をもう一度捕まえて抱き締めた。今度は女土方も僕を突き放そうとはしなかった。
「分かったわ。分かったからもう離して。手当てが先でしょう。顔に傷が残ったらどうするの。」
女土方は電話を取り上げるとフロントに電話をして医者を頼んだ。それから間もなく医者が来た。
「口の内側がかなり深く切れていますね。このままでも治らないことはないけれど食事の時など日常生活に不自由するでしょうから縫合した方が良いでしょう。ちょっと知り合いの外科医に聞いてみますから待ってください。」
初老の男性医は部屋の電話で相手の外科医に傷の状況を簡単に告げて処置を依頼した。
「これから診てくれるそうです。フロントに車を準備させましょう。」
こうして僕は名護市内の外科医のところに連れて行かれて口の中を数針縫われて部屋に戻って来た。でも僕は後のことを考えて治療だけでなくしっかりと診断書を医者からもらっていた。もしかしたらこれが役に立つことがあるかもしれない。
「全くあなたって人は何故あんなことをしたのよ。本当にどうしちゃったの、あなたは。まるで男、そうあの時のあなたって男そのものだったわ。」
女土方が至極的を得たことを言った。
「そう、だから言ったでしょう。私は男だって。うそなんかつかないわ。」
僕は笑顔で女土方に片目を瞑って見せた。女土方は一、二歩下がってしげしげと僕を見た。
「ふざけたことばかり言って。もう何だか分からないわ。あなたは間違いなく女。それは私がよく知っている。でも時々あなたが一体何者なのか分からなくなるわ。何を考えているかも。」
「私が考えていることはあなたと穏やかに暮らしたい。それだけよ。他には何もないわ。そんなに化け物でも見るような目で私を見ないで。ここに来て抱いてよ。」
これで涙でも流せれば完璧なんだろうが、何分体を動かしているソフトが男なものでこういう時に女がどうして涙が出せるのか分からなかった。女土方は頭を振りながら近づいて来た。
「本当にやんちゃな子で仕方ないわね。どうするの、この口。こんなに腫れてしかも内出血までして。どんなに化粧をしても当分は隠せないわ。」
今回の戦闘ではこっちもかなりの損害を受けたが、向こうのけつにも当分は消えないくらいの手形をつけてやったからお相子だろう。それでもけつは人前には晒さないから表面的な損害はこちらが大きいかも知れないが、今回の戦闘で負った総合的なダメージを比較すれば向こうがはるかに大きいだろうから良しとしておこう。それにしても僕が使うようになってからこの佐山芳恵の体には縫い目が増えること。
「いいのよ、あんな高慢ちきな女あのくらいしてやっても。あなたが腕をつかんで止めるから驚いたわ。そうでなければあと十回くらい叩いてやったのに。」
「口では言っていたけれどまさか本当にやるとは思いもしなかったわ。彼女も驚いたでしょうね。子供みたいにお尻を叩かれるなんて。それも自分のお仲間の前で。それに取り巻きの皆様本当に縮み上がっていたわね。でも口から血を流しながらあの剣幕で凄まれたら誰でも縮み上がるかも知れないわね。私も側で見ているだけでも怖かったわ。」
本気で怒っているのだからそれは怖いだろう。しかも男のソフトウェアで怒っているのだから。それよりも僕は何か冷たいものが欲しくなった。
「コーヒーが飲みたいわ。行かない、ラウンジへ。まだやってるかな、ラウンジ。」
案内を見るとラウンジは午前0時まで開いていた。口から流れた血がついたトレーナーを着替えて部屋を出ようとしたところに今回の旅行の幹事たちが入って来た。
「佐山さん、怪我をしたと聞いたけど大丈夫ですか。」
幹事の一人がばかなことを聞いた。大丈夫かどうかこの顔を見れば分かるだろう。
「ご心配をかけてすみません。ちょっとぶつかってしまって。でもお医者にも診てもらったし大丈夫ですからご心配なく。」
口が大きく開かずに篭ったように不明瞭な言い方になってしまったが、まさか北の政所様に殴られたと言うわけにもいかずに適当に返事を濁しておいた。ぶつかったと言えばまさしく北の政所様の手とぶつかったので具体的に詳しい状況を話していないというだけで決してうそではないのだからそれでいいだろう。こうしてまた唖然としている幹事達をその場に残して部屋に鍵をかけると僕は女土方と一緒にラウンジへと降りてしまった。
「アイスコーヒーを二つください。」
閉店時間の間近いラウンジで注文する僕の顔をウエイトレスがしげしげと見つめた。一時期たらこ唇なんて言葉が流行ったが、色を除けば今の僕は全くそのタラコ唇に違いなかった。しかも青黒いタラコ唇ではウエイトレスが呆れて見つめるのも無理はなかった。
コーヒーが運ばれてくるとグラスに口をつけて思い切り飲んだ。少しばかり傷に滲みたが、火照った粘膜にアイスコーヒーの冷たさが心地良かった。
あなたにもいろいろと事情はあるのでしょうけど他人を楯にしたり他人の力を使って一生懸命生きていこうとする人を侮辱するような人よりもビアンでも何でも自分の力で自分の生き方を切り開いて行こうとする人たちの方がずっと素敵だと思うわ。あなたが私に何かするつもりならどうぞ遠慮なくやってご覧なさい。血筋やお育ちはよろしいようだけど周りに人がいなければ自分では何も出来ない人なんか怖くも何ともないわ。」
北の政所様の白い顔が今度はさっと赤みを帯びた。そしてすっと立ち上がると「立ちなさい。」と低い声で僕に向かって言った。言われるまでもなく開戦を決意していた僕も立ち上がって北の政所様に向き合った。
「もう一度言ってご覧なさい。私の生立ちが何の関係があるの。私が虎の威を借る狐って言うの。そんなことを言うことは絶対に許さないわよ。」
北の政所様は怒りで全身を震わせていた。このような場合アメリカが得意とする『相手に先に一撃を加えさせて自分の武力行使を正当化する。』という方法が妥当と判断して次の手に出た。
「ええ何度でも言ってあげるわ。自分のバックボーンを使って徒党を組んで一生懸命生きようとしている人達を侮辱するような人は最低だわ。」
言い終わってから「さあ来るぞ。」と悟られないように右足を少し下げて身構えた。その直後左の頬に衝撃を感じると同時に肉を打つ鋭い音が部屋に響いた。頬に痺れるような違和感があってその後すぐに口の中にぬるぬると血が流れ出して広がった。
北の政所様は怒りに任せてさらにもう一度僕を打つつもりだったのか右腕を大きく振り上げた。感情に任せて同じ手を二度も使ってしかもそんなに大きく振りかぶってはいけない。小さく鋭く相手の急所を殴って一発で片をつけなくては。そうでないとその隙を突かれて反撃を食らうことになる。
僕は大きく振りかぶった北の政所様の腕を自分の左腕で払うとそのまま脇に抱え込んで手前に引いた。北の政所様は他愛もなく僕の懐によろめくように飛び込んで来た。北の政所様を脇に抱えてそのまま後ろにしゃがみ込むように僕はベッドに腰を下ろした。そしてその背中をひじで押さえて動きを封じた。
「何するの、やめなさい。やめないとひどいわよ。」
北の政所様は叫び声を上げて足をばたつかせたがかまわずに背中を押さえ込んだ。
「あなたみたいな分からず屋さんはこうでもしなきゃ目が覚めないんじゃないの。」
僕はうつ伏せに押さえ込んだ北の政所様の浴衣の裾を思い切り跳ね上げると白いレースのパンティを引き下ろした。そこには思いの他かわいらしい白くて丸い北の政所様のむき出しのお尻があった。
「きゃあ、何するのよ。やめなさい。やめなさいってば。」
北の政所様が叫ぶのもかまわずに僕は子供のお尻を叩く要領で右手を振り上げると思い切り白いお尻を叩いた。この場合は相手を押さえ込んで動きを封じているからどんなに大きく振りかぶろうと反撃を食らうことはない。けんかも戦争も常に冷静な方が勝利するんだ。
僕の頬を打った時よりもずっと大きな乾いた音が部屋中に響き渡った。同時に「ひっ」という北の政所様の叫び声が聞こえた。打たれた北の政所様のお尻には朱色の手形がくっきりと浮き上がった。一度打った後、僕は顔を上げて取り巻きを睨み据えた。誰もが凍りついたように動かなかった。言葉さえ発する者もなかった。北の政所様も機能を停止したロボットのように動かなくなった。
「伊藤さんに謝りなさい。あなたは自分のしていることがまだ分からないの。」
僕はもう一度手を振り上げたが、口を開いた時に溜まった血が滴り落ちてまるで北の政所様の背中に赤い花が咲いた様に広がった。僕はもう一度力一杯手を白いお尻に向かって振り下ろした。また部屋中に乾いた音が響き渡り手形の朱色が大きくそして濃くなった。
「あなたも少しは分かったの。人の痛みが。何とか言いなさい。」
身動き一つしない北の政所様に向かって三度目に手を上げたところで誰かが僕の腕をつかんだ。
「もう止めなさい。」
女土方が強い口調で僕を制するとすばやく浴衣を引き下ろして北の政所様の下半身を覆ってやった。その瞬間僕は北の政所様のお尻に当分消えそうもないくらいくっきりと僕の手の跡がついていたのを見逃さなかった。いい気味だ。思い知ったか。
女土方はあれだけ自分を侮辱した北の政所様の身支度を整えてやったが、北の政所様はうつ伏したまま身じろぎもしなかった。僕は立ち竦んでいる親衛隊のところに行くと総務の係長が手に持っていたタオルを引っ手繰る様に取ってその中に口に溜まっていた血を吐き出した。そしてそれを親衛隊の皆様の足元に投げつけた。
「タオルを汚しちゃったわね。弁償するから後で請求してね。」
総務の係長に向かって吐き捨てるように言ったが、その間も口から流れ出した血が黄色のトレーナーに落ちて赤い染みを増やしていた。
「ねえ誰かもっと大きなタオルを取ってくれない。」
親衛隊の皆様は抱き合うようにして僕を見つめていたが、そのうちの一人がホテルのタオルを取り上げると震える手で恐る恐る僕に差し出した。
「ありがとう。」
僕はきちんとお礼を言ってタオルを受け取ると自分の口に当てた。
「さああなた達の頭領を早く部屋に連れて帰ってあげたら。」
僕は押し止めようとする女土方を押しのけてベッドにうつ伏せになったままでいる北の政所様の肩と帯をつかんで引き上げて起こした。顔面蒼白で放心したようなうつろな目をした北の政所様を引きずるようにして親衛隊のところに連れて行くと「さあ、行きなさい。」と声をかけてからお尻をもう一度軽く叩いて押し出した。よろよろと親衛隊の中に崩れ込んだ北の政所様を支えて親衛隊は潮が引くように部屋から出て行った。
僕は北の政所様ご一行が部屋から出て行くのを見送ってから立ち尽くしている女土方のそばに行くと流れ出る血を腕で拭ってから思い切り抱き締めた。何だか女土方がとても愛おしかった。でも僕の抱擁はすぐに女土方に突き放されてしまった。
「フロントに電話をしてお医者の手配をお願いするわ。出血が止まらないじゃない。女の顔にひどいことをする。」
僕は体を離した女土方をもう一度捕まえて抱き締めた。今度は女土方も僕を突き放そうとはしなかった。
「分かったわ。分かったからもう離して。手当てが先でしょう。顔に傷が残ったらどうするの。」
女土方は電話を取り上げるとフロントに電話をして医者を頼んだ。それから間もなく医者が来た。
「口の内側がかなり深く切れていますね。このままでも治らないことはないけれど食事の時など日常生活に不自由するでしょうから縫合した方が良いでしょう。ちょっと知り合いの外科医に聞いてみますから待ってください。」
初老の男性医は部屋の電話で相手の外科医に傷の状況を簡単に告げて処置を依頼した。
「これから診てくれるそうです。フロントに車を準備させましょう。」
こうして僕は名護市内の外科医のところに連れて行かれて口の中を数針縫われて部屋に戻って来た。でも僕は後のことを考えて治療だけでなくしっかりと診断書を医者からもらっていた。もしかしたらこれが役に立つことがあるかもしれない。
「全くあなたって人は何故あんなことをしたのよ。本当にどうしちゃったの、あなたは。まるで男、そうあの時のあなたって男そのものだったわ。」
女土方が至極的を得たことを言った。
「そう、だから言ったでしょう。私は男だって。うそなんかつかないわ。」
僕は笑顔で女土方に片目を瞑って見せた。女土方は一、二歩下がってしげしげと僕を見た。
「ふざけたことばかり言って。もう何だか分からないわ。あなたは間違いなく女。それは私がよく知っている。でも時々あなたが一体何者なのか分からなくなるわ。何を考えているかも。」
「私が考えていることはあなたと穏やかに暮らしたい。それだけよ。他には何もないわ。そんなに化け物でも見るような目で私を見ないで。ここに来て抱いてよ。」
これで涙でも流せれば完璧なんだろうが、何分体を動かしているソフトが男なものでこういう時に女がどうして涙が出せるのか分からなかった。女土方は頭を振りながら近づいて来た。
「本当にやんちゃな子で仕方ないわね。どうするの、この口。こんなに腫れてしかも内出血までして。どんなに化粧をしても当分は隠せないわ。」
今回の戦闘ではこっちもかなりの損害を受けたが、向こうのけつにも当分は消えないくらいの手形をつけてやったからお相子だろう。それでもけつは人前には晒さないから表面的な損害はこちらが大きいかも知れないが、今回の戦闘で負った総合的なダメージを比較すれば向こうがはるかに大きいだろうから良しとしておこう。それにしても僕が使うようになってからこの佐山芳恵の体には縫い目が増えること。
「いいのよ、あんな高慢ちきな女あのくらいしてやっても。あなたが腕をつかんで止めるから驚いたわ。そうでなければあと十回くらい叩いてやったのに。」
「口では言っていたけれどまさか本当にやるとは思いもしなかったわ。彼女も驚いたでしょうね。子供みたいにお尻を叩かれるなんて。それも自分のお仲間の前で。それに取り巻きの皆様本当に縮み上がっていたわね。でも口から血を流しながらあの剣幕で凄まれたら誰でも縮み上がるかも知れないわね。私も側で見ているだけでも怖かったわ。」
本気で怒っているのだからそれは怖いだろう。しかも男のソフトウェアで怒っているのだから。それよりも僕は何か冷たいものが欲しくなった。
「コーヒーが飲みたいわ。行かない、ラウンジへ。まだやってるかな、ラウンジ。」
案内を見るとラウンジは午前0時まで開いていた。口から流れた血がついたトレーナーを着替えて部屋を出ようとしたところに今回の旅行の幹事たちが入って来た。
「佐山さん、怪我をしたと聞いたけど大丈夫ですか。」
幹事の一人がばかなことを聞いた。大丈夫かどうかこの顔を見れば分かるだろう。
「ご心配をかけてすみません。ちょっとぶつかってしまって。でもお医者にも診てもらったし大丈夫ですからご心配なく。」
口が大きく開かずに篭ったように不明瞭な言い方になってしまったが、まさか北の政所様に殴られたと言うわけにもいかずに適当に返事を濁しておいた。ぶつかったと言えばまさしく北の政所様の手とぶつかったので具体的に詳しい状況を話していないというだけで決してうそではないのだからそれでいいだろう。こうしてまた唖然としている幹事達をその場に残して部屋に鍵をかけると僕は女土方と一緒にラウンジへと降りてしまった。
「アイスコーヒーを二つください。」
閉店時間の間近いラウンジで注文する僕の顔をウエイトレスがしげしげと見つめた。一時期たらこ唇なんて言葉が流行ったが、色を除けば今の僕は全くそのタラコ唇に違いなかった。しかも青黒いタラコ唇ではウエイトレスが呆れて見つめるのも無理はなかった。
コーヒーが運ばれてくるとグラスに口をつけて思い切り飲んだ。少しばかり傷に滲みたが、火照った粘膜にアイスコーヒーの冷たさが心地良かった。