
「若者は年金を払っても元が取れない」
「自分で運用した方がマシ」
ネットやSNSでよく見かける言葉ですが、これは本当なのでしょうか?
もし、公的年金(厚生年金)を「20歳から60歳まで毎月積み立て、老後にお金を受け取る投資商品」だと考えて、ガチで利回り(IRR:内部収益率)を計算してみたらどうなるのか。
現役世代が抱く疑問に対する「シビアな現実」と、「投資家目線での賢い付き合い方」を解説します!

1. 結論:元は取れるが、利回りはそんなに高くない
まず、一番気になる「元が取れないんじゃないか?」という疑問への回答です。
結論から言うと、元はきっちり取れます。
ただし、株式投資のような「高い利回り」は期待できません。
将来の「インフレ率2%」が続き、年金額が毎年約0.9%ずつ目減りする「マクロ経済スライド」がフル発動した世界での、物価変動を差し引いた【実質利回り】のシミュレーション(65歳受給開始ケース)がこちらです。
65歳から受け取った場合の実質利回り
(※平均月収40万円、40年勤務、自己負担分の保険料のみを元本とする)
- 71歳まで生存:× まだ元が取れていない状態
- 75歳まで生存:実質利回り 約 -0.5 % (ほぼトントン)
- 81歳(男性平均):実質利回り 約 0.7 %
- 87歳(女性平均):実質利回り 約 1.4 %
- 100歳(長寿):実質利回り 約 2.2 %

<上記の計算のモデル例>
・支払うお金:平均月収40万円の人が、自分の給料から毎月約3.6万円(会社負担分を除いた本人の保険料)を40年間積み立てる(総額:約1,750万円)
・もらえるお金:65歳から年間約190万円(現在の基準)の年金を死ぬまで受け取る
<87歳まで生きて、合計約4,180万円を受け取る場合の計算イメージ>
- 「現役の40年間、毎月3.6万円を【年利1.4%】で複利運用して積立金を作った」と仮定
- 「60歳〜65歳までの5年間、その積立金を【年利1.4%】のまま据え置いた」と仮定
- 「65歳から、残高を【年利1.4%】で運用しながら、毎年190万円ずつ取り崩していった」と仮定
このとき、「87歳で亡くなった瞬間に、口座の残高がちょうどピッタリ『0円』になる金利」を計算すると、上記の【実質利回り 1.4%】という数字が導き出されます。
※今回はさらに、すべての数字から「インフレ率2%分」を差し引いた、本質的なお札の価値(購買力)ベースで計算しています。

ご覧の通り、平均寿命まで生きればプラスになりますが、100歳まで生きてやっと2%を超える程度です。
「大儲けできる投資」とは言えません。
しかし、ここがポイントです。この年金は「株のように暴落して失敗するリスクがない」という絶対的な強みを持っています。
そのため、年金は増やすための投資ではなく、「資産運用のベースとなる、絶対に崩れない超・低リスク資産」と考えるのが正解です。

2. なぜ「お得」なのに「高利回り」にならないのか?
年金には、私たちが有利になる「お得な仕組み」がある一方で、利回りを抑え込む「ブレーキ」も同時に組み込まれています。
理由①:国と会社が「軍資金」を上乗せしてくれるからお得
私たちが将来もらえる厚生年金の山は、自分の掛け金だけで作られているわけではありません。
・国のサポート:裏で国が「税金」を半分投入
・会社のサポート:さらに会社が保険料を「半分負担(労使折半)」
つまり、あなたの財布から出たお金(元本)に対して、国と会社が裏で強烈な上乗せ(実質4倍の軍資金)をしてくれている状態です。
だからこそ、早く亡くならない限りは、手堅く「元が取れる」構造になっています。
理由②:それなのに高利回りにならないのは「マクロ経済スライド」のせい
国や会社がこれだけバックアップしてくれているのに、なぜ利回りが2%程度に抑えられてしまうのか?
その犯人が「マクロ経済スライド」という制度です。
日本の年金は、現役世代の減少や寿命の伸びに合わせて、もらえる年金額を毎年自動的に引き下げる(およそ年0.9%ずつ目減りさせる)仕組みになっています。
インフレで物価が年2%上がっても、年金は1.1%程度しか増えないため、長期間かけてじわじわと「実質の購買力(利回り)」が削られてしまうのです。

3. 結局、何歳から貰うのが一番利回りがいいの?
このマクロ経済スライドも考慮し、「65歳」から正しくもらうのと、ペナルティを覚悟で「60歳」から繰上げ受給するのとでは、どちらが投資効率(利回り)が良いのかを比較してみましょう。
実は、お金を早く受け取って手元に置く「時間価値」を考慮すると、意外な事実が見えてきます。
【受給開始年齢別】実質利回りの直接比較
75歳で死亡
65歳開始:約 -0.5 %
60歳開始:約 1.1 % (繰上げの勝ち)
81歳で死亡(男性平均)
65歳開始:約 0.7 %
60歳開始:約 1.6 % (繰上げの勝ち)
87歳で死亡(女性平均)
65歳開始:約 1.4 %
60歳開始:約 1.7 % (まだ繰上げの勝ち!)
95歳で死亡
65歳開始:約 2.0 % (ここで65歳が逆転)
60歳開始:約 1.8 %
100歳で死亡
65歳開始:約 2.2 % (65歳がさらに差をつける)
60歳開始:約 1.8 %
※計算内容は省きますがGemini君に計算させています

利回りの分岐点は「91歳前後」
よく「81歳を過ぎたら65歳からもらった方が総額でお得」と言われますが、利回り(投資効率)ベースで計算すると、実は80代後半(87歳など)でも、まだ60歳から早くもらい始めたケースの方が有利という結果になります。
利回りが完全に逆転するのは「91歳前後」です。
・90歳より前に亡くなると思うなら:60歳繰上げ受給の方が早く現金を回収できて「投資効率」が良い。
・91歳以上生き抜く自信があるなら:65歳受給の方が、最終的な利回りも毎月の生活費の盾としても強くなる。
という結果です。

ちなみに、元本を回収できるのは、計算上
60歳受給開始なら「71歳」
65歳受給開始なら「75歳」
となります。
仮に20歳から60歳まで40年投資して、元本を回収できるのが70歳であれば50年かかりますから、これを株と思ってPERに直せばPER50倍ですから、割高な投資対象になります。

ただ、年金受給については、投資先としては、別の切り口で見ておく必要もあります。
もしも、インフレが腰折れして、またデフレに戻ってしまったら?
リスク資産である株は目減りしますが、マクロ経済スライドによる物価上昇と年金受給の乖離は減り、場合によっては逆ザヤが発生します。
もし今後平均寿命が延びて平均でも100歳になる時代が来れば、元本回収後の株で言えば、その期間、低リスクでインカムを受けれる投資対象となりえます。
なので、年金なんか払わずに、自分で運用した方がというのは数字上は確かに利回りが高くなる可能性がある一方、リスク分散の低リスクの投資先として見た場合には年金への入金は有力に見えます。

4. 【上級編】「退職金」と「iDeCo」があり、控除しきれないなら65歳受給が有利なことも
ここまで「投資効率(利回り)だけなら60歳繰上げ受給が有利」という話をしましたが、実務の税金面を考えると「あえて65歳まで公的年金を我慢した方が、手取りが圧倒的に多くなる」という裏技があります。
キーワードは、国の税金優遇枠である「退職所得控除」と「公的年金等控除」の使い分けです。
もし、60歳の定年時に「会社の退職金」と「iDeCo」を同時に一括(一時金)で受け取ろうとすると、引ききれないほどの税金がかかってしまう(退職所得控除をオーバーしてしまう)リスクがあります。
そこで、以下のように「もらう時期と控除の枠」をずらすリレー運用が極めて有効になります。

税金を限界まで安くする「最強の受給リレー」
- 【60歳時点】
会社の「退職金」を一時金(一括)で受け取り、「退職所得控除」をフル活用して無税〜超低税率に抑える。 - 【60歳〜64歳までの5年間】
iDeCoを「年金形式(分割)」で受け取り、「公的年金等控除(65歳未満は年間60万円)」+「基礎控除(48万)」=計108万を使って税金をほぼゼロにする。 - 【65歳以降】
満を持して「公的年金」の受給をスタート!ここからは「公的年金等控除」の枠が「年間110万円まで」に拡大するため、ここでも税金の負担を最小限に抑え込める。

つまり、税金まで含めた「真の手取り」で選ぶべし
もし、利回りにつられて公的年金を「60歳」から繰上げ受給してしまうと、60歳〜64歳の期間に「iDeCoの年金」と「公的年金」が同じ控除枠(年60万円)を取り合ってしまい、大増税されてしまうのです。
投資としての利回り(IRR)だけを見れば60歳受給が魅力的に見えますが、退職金やiDeCoといった「他のお金」との兼ね合いを考えると、「65歳まで公的年金を温存する受給リレー」の方が、最終的に手元に残る現金(真の手取り)が多くなるケースもあると言えます。
なのでこの辺りはご自身の資産状況に合わせた需給を考える必要がありますね。




