それは数ヵ月前のことだったか、

中途入社でほとんど話す機会もなかった隣の部署の20代のHくんと、

たまさか夕刻のエレベーターで一緒になったのは。

「どこまで帰んの?」

ほぼほぼ社交辞令でそう尋ねた話が1Fに着く頃には意外に転がってゆき、

「今度呑もう!」

と約束するに至ったのは、

彼が大学の後輩であることが判明したからであった。

 

そうして、お得意の関六マスターの店で、アラフィフの大学後輩Sも呼びつけ、

昔話に花咲かせていると、なんと世代を超えたHとSがそれぞれに

「あの店でよく吞みましたよ~」と語る思い出の店が一致する事が判明したのだ。

その名は「宮古」!

確かにあったな…遠い記憶がワシにも甦った。が、

在学中1回入ったか入んなかったかくらいの記憶でしかない。

しかし、しかしだ、昨夏、定年記念旅行で宮古島に魂を鷲掴みに奪われたワシ、

どーしてもそのM大前「宮古」に行ってみたい!

久しぶりに宮古そばを堪能したい! 何が何でも行ってみたい! 行きたいったら行きたい! たのむ、連れて行ってくれ!

 

そんなこんなで、ようやく実現したのが木曜日のことだったのですね。

 

大学卒業してから「M大前」に降り立つのは、確か2回目。

その最後の1回は30代くらいだったのではないかと推測(笑)されるので、

実に二十数年ぶりの来訪となる。

約束の時間のちょっとだけ早めに着いて、少しだけ散策したのだが、

往時のランドマーク富士銀行は無いし、というか「富士銀行」自体がもはや無いのか、

甲州街道に向かって開ける大通りの風景に仰天するばかりで、

記憶を蘇らせる材料の一つも見当たらない。

 

なんと、まあ。。。

 

そんなにいい想い出のある街ではないとはいえ、

ノスタルジーに浸るトリガーくらいは残しといてくれよなあ~。。。

とボヤキながら、認知症老人さながらにグーグルマップでお店に向かう。

まあ、下北沢の激変に較べればまだ名残があるのかなあ…とか。

 

5分前に入店すると、二学年下のMが既に瓶ビールを飲っていた。

おい、サッポロじゃなくて、そこはオリオンやろ!

とかツッコミながら、SとMの到着を待つ。

今夜のメンバーは4人だ。

ワシとMはほとんど同時期体験を共有するわけだが、

Sの時には新校舎もあったとかで、さらにHまで下ると、それぞれの

街に対する心象が大きく違うもんだねえ~…と当たり前の事を馬鹿みたいに喜ぶ。

 

四人それぞれが、それぞれの十九・二十歳の頃の自分を想い出しているのだった。

 

未来は変えられるのかもしれないが、

通り過ぎて来た過去は、もう、それでしかない。

 

想いは、それぞれ違うのだけれど、

「この街」に若き日の痕跡をとどめた、という記憶を共有する選ばれた朋友。

OB会がいろんなところで盛んなのも、人脈功利目的以外の情緒が作用してるのだろね。

 

そんなことを想いながら、トイレに立ちながら、店先で一服してる間に、

後輩が注文したシメの「宮古そば」が運ばれてきていた。

いや、違うやろ!四人で2杯じゃない!ワシゃひとりで一杯食べたいんじゃあ!

 

・・・で、追加で2杯たのみました。

 

あ~~~

昨夏の宮古旅行以来、狂おしいほど恋焦がれていた「宮古そば」。

カマボコは入っていないが、三枚肉の旨さ…

うどん8スナック麺2のような独特な食感…

カツオ出汁の利いた、やさしい味わい………

 

う~~~~~~~~ん

 

やっぱ、本場には敵わないのかなあ…。

麺は長期保存対応のものなのか、現地でいただいた滑らかさやもちもち感ないし、

つゆは関東味に迎合したか、ちょっと醤油強いし…

あ――本場の宮古そば食べてええええ~~~!!

 

…と、宮古島への想いは激しく募るが、そんな不粋な事は言わない。

M、S、Hにとっては、これが思い出の「宮古そば」なのだからね。