京都の古宿での一泊は、文化財の真髄を体感したような気分だったー泊まるべし | しもちゃんのブログ

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 過日、関西に所要があったのを幸いに、以前から是非にと思っていた京都市烏丸御池近くの江戸時代からのお宿、T屋に念願かなって宿泊した。


その部屋の作りは土壁、障子、板材など各職人さんが女将さんとあれこれ練り上げて古典的手法にて作り上げたものらしく、なんとも言えない居心地の良さに溢れていた。風呂も高野槇で、大昔の豪族は高野槇の棺桶に入ったが、やはり居心地がよかったのかななどいらんことを風呂のなかで考えた。


日本において鍛え抜かれた伝統的素材が、職人によって工夫が凝らされるとこんなにも人を落ち着かせ、しっとりさせ、安らかにさせるとは、体験してはじめて知ることができた。


かかわった職人さんたちは文化勲章とか重要文化財保持者とかには関係ないかもしれないが、そんなものはどうでもいい。われわれ庶民にそうして伝統技を気安く提供してくださるところに価値があり、貴重なのだ。常民文化財功労者ともいえるであろう。


ここで泊することは、伝統文化財のなかに身をおくことであり、それがいかに心地のよいものであることに理会できるところなのだ。


さらにこの部屋には伝統を邪魔する不可欠の近代ものはすべて隠して見えないようにしてある。たとえばテレビは子押入れのなか、空調機の全面には桟状のものがあり、温風のみがもれだす。外部にみえるのは空調の調節器(これも壁の足元にあった)とコンセントくらいで、コンセントもどこにあるのか探すのに苦労した。


つまりここでは、不要なものは何もつけない、不可欠でそぐわないものは工夫して隠し、この部屋の味わい、過ごしを邪魔するものは一切排除しているのである。


これって、文化財を保存し、それの価値を削ぐものは一切付け加えない、不要のものは排除するという文化財の取り扱いと対処を決めたイコモスの理念とピッタシ一致するではないか。

T屋は生きたイコモス理念の体現者なのだ。


この宿が平成9年にボヤを起こした時、たまたま泊まっていたあの渋い米国男優トミー・リー・ジョンズがボヤが収まったと聞き、一時避難先から「鎮火したなら、あの気持ちのいい部屋に戻りたい」と言ったという話を村松友覗さんが「俵屋と不思議」という書物で紹介していた。外国人の宿泊者が多いらしいが、いい文化財は世界を問わないということだろう。


いいしつらえ、それの活かし方、宿泊人への対応(ホスピタリティ)の三位一体となった見事さは、これは文化財の扱い方のあるべき姿を体現している。見本であり、先生である。


宿賃はちと高い(出張費では無理)が、文化財関係者は是非一度は泊まってみるべきです。お勧めします。ハード工事による整備が文化財の活用と思っている御仁には目が覚めるよ。



向こうに炬燵

シンプルは気持ちがよい。