「睡眠時無呼吸症候群」を改善する、1日1分トレーニング | サピエンスの時間を考えるあなたへ健康と元気を!

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患者は全国に2000万人!?「睡眠時無呼吸症候群」の危険性

学生時代、私はラグビーに熱中していました。ラグビーは走ってはぶつかり、ぶつかっては走る、とても激しいスポーツですが、それだけに練習後、荒い息が静まるにつれて疲労感がじょじょに癒えていくときの回復感は、非常に心地よいものでした。当時の私にとって、呼吸は「蘇生感」と強く結びついた、生命のリズムを刻むベーシックな機能(つまり本能)と感じられたのですが、医者となった今でも、この直観はそうまちがっていなかったと思います。

というのも、じつは病気が治っていくときの再生の感覚と荒い呼吸がじょじょに静まっていき、疲労感が癒えていくという感覚はほとんど同じだからです。

呼吸は多くの生物がもっとも無意識に行っている身体活動であり、生まれつき備わっている本能の中でももっとも基本的なもの。逆に、意識しなければ呼吸できないという人はいないでしょうし、いたとしたらその人は病人のはずです。つまり、本能が弱まっている人なのです。

では、そもそも呼吸とは何か。

要するに、酸素を体内に取り込んで、二酸化炭素を体外へ出す「換気」行為のことです。呼吸によって空気中から肺へ取り入れられた酸素は血液中の赤血球内のヘモグロビン(血色素)によって全身の組織に運ばれますが、このヘモグロビンは鉄分を含んだタンパク質です。鉄分の欠乏が貧血の引き金になるのは、材料不足によってヘモグロビンが十分につくられないためです。その結果、全身に酸素が行きわたらなくなってしまいます。

また、「空気が薄い」高地で息苦しさを感じるのは、呼吸によって体内に取り込める酸素の量が少なく、血液中に溶け込む酸素量(酸素飽和度)が低下してしまうためです。

呼吸本能が衰えた典型的な例が、最近とくに話題になっている睡眠時無呼吸症候群です。眠っている間にしばらく息が止まる。呼吸機能が低下する。酸素不足が生じる。これをくり返すのが睡眠時無呼吸症候群ですが、それは当然、眠りの質を低下させ、高血圧や脳梗塞、心筋梗塞などの原因となります。

睡眠時無呼吸症候群は現代病のひとつですが、一説によれば同病の一症状である「いびき」も含めると、全国で2,000万人もの患者さんがいるといわれています。原因不明の体調不良に悩まされていたのはじつはこの病気が原因だったということもあるくらいなので、健康のためには治しておいて損はありません。

つまり、呼吸本能の異常が呼吸器系の病気を引き起こす。逆にいえば、呼吸本能が絶えずそのバランスを保つことで体の健康の土台をつくってくれているわけです。

1回15秒の「舌出し運動」で睡眠時無呼吸症候群が改善

では、呼吸本能を高めるにはどうすればよいか。それは喉の奥、舌の根っこあたりにある口蓋筋という筋肉を鍛えることです。これは、睡眠時無呼吸症候群を治す方法でもあります。

「喉の奥のトレーニングなどできるのか?」という疑問があるかもしれません。しかし、これが意外に簡単なのです。少なくとも、やせるよりはるかにやさしい方法です。

具体的には「舌出し運動」、これを1日に1分間だけすればいいのです。思いきりアカンベエをする感じで、舌べろを限界まで前へ突き出す。その運動を15秒×2回。それをワンセットとして朝と夜の2回行う。15秒の運動が計4回、合計時間にして1日たった1分ですが、その実践を私は病院にくる患者さんにもすすめています。その経験から、早ければ1週間、遅くても2、3ヵ月以内に無呼吸の症状がかなり改善されます。

「眠っている最中に自分がいびきをかいているか、無呼吸になっているかわからない」という人は、洗面台などの鏡の前で、口を大きく開けて舌を前に突き出し、喉の奥を鏡に映してみてください。そのとき口蓋垂(いわゆるノドチンコ)が見えない人はほぼまちがいなく無呼吸の症状があるか、その予備軍であるいびきをかいています。

鏡で喉の奥を見て、口蓋垂が見えるかチェックを

睡眠時無呼吸症候群の人はヘモグロビンの数値が高いのが通例です。無呼吸で体内へ取り込まれる酸素量が少なくなるため、それを補おうとして自然に数値が上がるのです。ですから、健康診断などでヘモグロビン数値の高い人に無呼吸の有無をたずねると、だいたい「イエス」の返事が返ってきます。そして、そういう人の喉の奥をのぞき込んでみると、ほとんど例外なく、口蓋垂が見えない状態になっているのです。

ぜひ鏡の前で自己チェックを行ってみてください。もし口蓋垂が見えないようなら、さっそく今述べた「舌出し運動」を始めてみてください。そう遠くないうちに筋力トレーニングの効果があらわれて、いびきや睡眠時無呼吸症候群の症状が改善され、あなたの衰えかけた呼吸本能も再生の坂道を上っていくはずです。

※本コラムは、『健康はあなたの体が知っている』(サンマーク出版)を一部抜粋・編集したものです。