「道しるべ」の足跡
3.11から現在まで「道しるべ」のワークを通して語られた
たくさんの「物語」は、震災の生々しさと悲しみ、現実の厳しさを
私たちにつきつけてくるものばかりでした。
何もできない悔しさと、ふがいなさでいっぱいになる自分。
そんなことを思う小さな自分に向けて「物語」はかけがえのない
勇気をくれました。どんなことがあっても自分の力で立ち上がり、
生きようとする方々の素晴らしさ、生をいただいたことへの
愛おしさがあふれていました。
「道しるべ」の中で主人公のくまが「うわぁーん!」と顔いっぱいの
涙でぐしゃぐしゃになって泣いている画面があります。
被災地の仮設住宅で見てくれたおばあちゃんたちは
口々に言いました。
「あー、ここまできたら楽だねー。」
「そうそう、ここにくればもう大丈夫だよ。ここまでが
大変なんだから。」
その表情はくったくのない笑顔にあふれ瞳がきらきらしています。
何かとてつもないことを乗り越えてきた人生の先輩方は
どこまでもやさしく、強く、明るさを失わないのだな。
私はそのように生きているだろうか、生きていけるだろうか、と
思わず問いかけました。
ではここでみなさんにもそのごく一部ですが「物語」をご紹介します。
「この絵本は…いいなぁ」
福島の仮設集会所でのワークショップ。
絵本そのものを初めて見たという方々ばかりの中、
そのおじいちゃんは市販絵本の読み語りを楽しそうに
聞いていました。その後「道しるべ」ワークになりました。
みなさんゆっくりとページを繰りながら眺めている中、
おじいちゃんだけはあるページを開いたまま、膝に置いて
身じろぎもせず、じーっとしています。
「よかったらどうぞご覧くださいね」と声をかけてもそのまま。
やがて顔を上げると「なんというか、わしは絵本というのを
初めてみたのでうまく言えんが…これは、この絵本はいいなぁ」と
一言。私は微笑んでうなづきました。
おじいちゃんは主人公が恐怖に追われて階段を駆け上がる
画面を開いたままでした。
「わしはこの先を知ってる。この後暗ーいトンネルに入るんじゃ。」
震災で多数の身内を一度に亡くしたこと。
その中に3人娘の一人が含まれていたことを続けて話しました。
どんな風にご遺体を見つけたのか、運んだのか…
「この歳になってまさか娘を失うなんて夢にも思わんかった。」
おじいちゃんは細かな描写までゆっくり詳細に伝えてくれました。
私はただ頷いておじいちゃんを見つめるだけ。
話し終わるともう一言。
「この絵本はええなあ、よく出来てる。」
ワークが終わると、隣にすわっていたおばあちゃんが
「あの…絵本をもらっていいかな…」と遠慮がちにおっしゃいました。
ワークの間3時間あまり、一言もしゃべらなかった同じ村の
おばあちゃんが初めて言葉を発した瞬間でした。
「もちろんです!」私は道しるべをおばあちゃんに連れて帰って
もらいました。さきほどのおじいちゃんの手にも道しるべが…。
後で聞いたのですが、おじいちゃんは震災直後からずっと
ふさぎ込んでしまい、あまり話をしなかったとか。
数か月後おじいちゃんに再開した時、はにかむような笑顔で
迎えてくれました。
ちょっとずつ、ほんのちょっとずつ…薄皮がはがれるように、
でも確実に何かが変化していく瞬間を見せてもらいました。
「どうして気持ちを話したりできるの!?」
福島県南相馬市の図書館でワークショップした際は、
震災後に故郷のために役立ちたいと帰ってきた若い人が
参加してくれました。
実は被災地で時々聞かれる話に
「震災の瞬間に一緒にいなかったことを、後々身内に
とても責められる」ということがあります。
たとえ親子でもそのことは深刻に家族の絆に影を落とすようです。
「あのときいなかったじゃないか」と言われる壁。
何か役立ちたいのにできない歯がゆさ…。
その日のワークショップでは偶然参加した数名がその体験の
真っ最中でした。「道しるべ」をみた後、一人がそのことを
ぽつぽつと話はじめました。それに刺激を受けてほかの人も
苦しい胸の内を語り始めました。
その時一人の若い男性がたずねました。
「どうしてそんな風に気持ちを話すことができるの?
どうやったら…」思いつめた表情の彼は、ワークの参加者を
見渡して「信じられない!」 という表情でした。
黙って頷いてほほえむ私を見て、やがて彼は自分の内側に
閉じ込めていた思いを、どんどん話し始めました。
伝えながらも、それを出している自分が信じられない、という顔で。
ワーク終了後、男性は心からほっとした表情で何度も
「ありがとう」を伝えてくれました。
まるで冷たい風に吹かれてこわばったかちかちの心が、
あたたかい部屋に入ってふっとゆるむような瞬間でした。
~終わりに~
「これは私の物語」
ワーク中に「これは私のための絵本です! なぜなら私が
経験していることそのままだから。」と涙しながら伝えてくれる
方が多くいらっしゃいます。
閉じ込めていた苦しい思いを主人公と一緒に旅することで
向き合えた瞬間なのでしょう。
ワーク参加者はみな一生懸命その言葉を聴き、頷いて
受け止めます。
それは大阪で、東京で、和歌山で、神戸で、どこでワークを
しても聞かれることです。
「道しるべ」は震災を機に誕生しましたが、実は日本中の
いえ世界中の人々にとって役に立つ絵本ではないかと
思いました。だからこそたとえ時間がかかっても、出版のための
寄付を全国から集め、英語訳もつけました。
多くの方々が手に取り、自分と向き合い、他者と誠実に
向き合っていくためのきっかけになることを願います。
「自分の友人がとても困っていると知った時、あなたなら何を思いますか? 何ができますか?」
「道しるべ」ワークショップはシンプルにそのことだけを伝え続けます。
そのことが自分と他者を大切につなぎ、
そのつながりが東北につながっていくことこそ、
被災地の心の復興にむすびついていくから。
「道しるべ」の「道しるべ」・・・おしまい
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